馬園倉重

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馬園倉重

 次に、馬園倉重にコンタクトを試みた。 「馬園倉重さん、いる? いたら、出てきて?」  しばらく待ったが、音沙汰はない。  不慮の死を遂げた者の魂は、死んだ場所から動けないことがほとんどである。  この場所にいないということは、つまり、ここが殺害現場ではないということだ。  最後の目撃場所である、隣の中学校に向かうことにした。  中学校と小学校の間は、簡素な門が付いた連絡通路で行き来できる。この門扉には鍵が掛けられている。  このルートを、馬園倉重さんも最後に歩いたはずである。  彼女の霊を探しながら歩いていると、後ろから妙な足音が聴こえた。  ――ザッザッザッザ……。  ――ザッザッザッザ……。  私しかいないはずなのに、数メートル後ろから聴こえてくる。  ――ザッザッザッザ……。  ――ザッザッザッザ……。  砂利道を歩くと、さらによく聴こえてくる。  気にすれば囚われる。無視して歩き続けた。  ――ザッザッザッザ……。  ――ザッザッザッザ……。  いつまでも付いてくるので、たまりかねて振り向きざまに叫んだ。 「誰かいるの⁉」  誰もいない。 「空耳? 幻聴? それとも……」  私の気が病むように、何かが仕掛けてきているのかもしれない。  気を取り直して再び歩き出す。  中学校も閉校していて、門は開けっ放しとなっていた。  門を通って中学校側に入ると、すぐそばに今は干上がっているが小さな貯水池がある。園芸好きな教頭先生が、何故かここまで手入れにきていたことを覚えている。 「馬園倉重さん?」  声を掛けると、貯水池のほとりに女児が現れた。 「……」  暗い表情で下を向いている。  彼女は、この世のものではない。
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