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結界
兎川七奈は、現在どのような状態でいるのか気になった。彼女も早耶人の呪いで苦しんでいるに違いない。
福籠彩人についても、呪いと無縁とは思えない。もしまだこっちにいるのなら、会っていろいろと話を聞きたい。
彩人は、確か自宅で亡くなっている。
七奈の現場は遠いので、比較的近い福籠家に寄って、彩人の霊に会ってから、七奈のところに行けば効率的だ。
福籠家には、一度だけ都鶴と行っている。記憶に自信を持っていた私は、強い足取りで向かった。
野山を越えて、農道を歩き、荒れた元田畑を横切る。しかし、福籠家は一向に見えてこなかった。
「おかしいな。間違えて覚えていたのかなあ」
田舎の風景はどこも似ている上に、何年も経って木が成長して、あったはずの畑は雑草に覆われ、子供の頃の記憶と違ってくる。そのためか、さっきから同じ場所をグルグルと回っている気がした。
「あれ? ここ、さっき通った?」
通ったのか通っていないのか。それさえも、似たような風景で分からなくなる。
小学校を起点にして歩けば、方角を間違えるはずがない。それなのに、ある場所に来ると、記憶のない道に出て迷ってしまう。迷っているうちに、なぜか小学校に戻ってきてしまう。どうしても福籠家にたどり着けない。
「これって、もしかして結界が張られている?」
呪いを最大限に悪用した早耶人のことだ。当然、呪い返しについても知識があり、用心しているはずである。呪い封じで、実家に結界を張ることはあるだろう。結界が邪魔して、行くべき道を通れないのかもしれない。
「参ったなあ。これでは、彩人君に会えない」
向こうから会いに来てくれれば結界なんて関係ないのだが、そんな都合の良い事は起きないだろう。
彩人の死の真相。七奈について、どこまで本気だったのか。兄の早耶人のこと。陽向のこと。いろいろと聞きたいことはあったが、今は無理のようだ。
「仕方ない。先に七奈に会いに行こう」
彩人のことは後回しにして、七奈に会いに行くことにした。
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