ちょっとだけ怖い話

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朝 花によい言葉をかけてあげると元気に育つというので毎朝必ず「おはよう、今日も綺麗だね」と言い続けていたら、今朝とうとう照れ笑いを浮かべるようになった。 毎朝決まった時間に聞こえていた楽しげな歌声が昨日から低く唱えられる念仏に変わり、今日はとうとう誰かのすすり泣く音しか聞こえなくなった。 登校中、思いつきでいつもと違う道を歩いていたら向こうから友達が歩いてきたので「はよ、お前も回り道?」と尋ねたが、よく考えてみるとコイツは先月末に他県へ引っ越したんじゃなかったろうか。 変わったルールのある場所は気を付けた方がいいと聞くが、俺の家では「月の出ている夜は必ず北枕で眠ること」という決まりがあるくらいで、いたって普通の家庭だと思う。 自家用車で出勤中、早朝のラジオ番組を適当に流しかけていれば「今週の運勢最下位はやぎ座のB型」とかいう話をしていたので嫌になって局を変えると、急に電波が悪くなったのかブツブツとノイズまじりに「うしろ」と聞こえた。 朝早くにドアの外からのカリカリと引っ搔くような音がするのでいつものように猫が朝食の催促に来たのだろうと思いからだを起こした後、昨晩から出張でホテルに泊まっていたことを思い出したし、この音は背後の壁の向こうからしている。 寝ぼけ眼のまま身支度を整えている最中にうっかりクッションを踏んでしまい「いたい!」と文句を言われた。 せっかちな家人が日めくりカレンダーを一日早く捲ってしまうのでそれを注意したところ、怪訝な顔で「あなたとは時間の流れが違うから」と話しながら指指した時計はよく見れば確かにどこかおかしかった。 こどもや動物は”視える”というが、うちの娘は朝7時になるとパッと目をつむり手で顔を覆いながら「しらないしらないしらない」と呟くので理由を尋ねると、どうやら本人にもよく分からないがそうしなければいけないらしい。 アラームが鳴るよりも早くに目が覚めた日は必ず、スマートフォンの充電器が引っこ抜かれている。
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