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【2】ハッピーセクシーエイリアン
「ぶぎゃっ!」
突如桔平は、どこか硬い床の上へ投げ出された。
受け身すら取れずに胴体着地、つまり腹パンという名の打撃を負う。
芋虫のように丸まり呻いている横で、同じように落ちてきたはずの拓海が、華麗に三点着地を決めていた。
「大丈夫か、桔平?」
「だいじょば、ないっ!」
幸か不幸か、返事をする元気はあった。
幼馴染の無事を知って拓海は、安堵の吐息を小さく漏らす。それから改めて辺りを見回して――絶句した。
「いやいやいやいや! 待て待て待て待て!」
信じられないことにそこは、見たこともない建物の内部だった。全面黒い壁で覆われた、大広間のような空間。
付近に人影はなく、ただただ静寂で、荘厳な気配が漂っている。
「は……? いや、おかしい! ありえない、これは夢だ!」
さっきまでいた芥山の、“あ”の字すらない光景。拓海がうろたえるのは、当然だ。
過去一番正気を喪失している彼は目線を泳がせ、冷や汗を流し。口を押さえて、叫び出さないよう律するのがやっとだ。
「すげぇ……! マジかよ……!」
対して桔平の方は、案外冷静だった。いや、拓海とは別のベクトルで興奮していた。
天井を仰ぎ見てその高さに驚き、床を触って未知の手触りに感動する。熱くも冷たくもなく、快適だ。
吸い込む空気はどこまでも清らかで、身も心も浄化されてゆくのを感じる。
「なんだこの床、継ぎ目もなくてサラッサラだ。それに……見ろよ! 光源一個もないのに、薄っすら奥まで見通せる!」
これはワープか、召喚か? いずれにせよ、あのピンクボールの仕業だろう。
あれは何が目的で、自分たちをここへ送ったのか。
桔平の予想では十中八九、世界の危機との戦いだ。破滅から民衆を救う最強ヒーローとして、この俺様が招聘されたのだ。
「おーい、拓海。しっかりしろ。現実主義者のお前には、ちょっとばかりきつい事案だったかもしれねーけど。やっぱり悪の組織が、超科学技術を隠してたんだよ。俺らは正義の使者に、導かれてやって来たんだ」
「ッ……!」
「けど心配すんな。この地で俺の、秘められし潜在能力が開花する。お前はオマケで召喚された、気の毒なモブ……だけど大丈夫、俺が守ってやるからよ!」
「なっ……!」
「いやぁ、それにしても。これから、どんな戦いが待ち受けてるんだろうな? グフッ、グフッ……抑え切れねーぜ、湧きあがる血のほとばしりをよぉ!」
「うるさいな! なんでお前だけ、ナチュラルに受け入れてるんだよ!」
「ひててててて!」
究極のドヤ顔をさらしつつ、友人の眼前で手をひらつかせていた桔平の両頬が、左右へ思い切り引っ張られる。
弱っていても拓海の煽り耐性は低く、攻撃力は上だった。
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