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「つか、危機感持てよ! 客観的に考えて、これは誘拐だろ! 俺たちこれから、エイリアンに生き血を抜かれたり、内蔵をえぐられたりするかもしれないんだぞ!」
「ほはひほとひふはほ……」
「事実だろうが。同意もなく拉致してきた連中が、敵対勢力じゃないと、なぜ言い切れる? それこそ、出会った瞬間に、頭からパクリ……」
「ふいぃぃっ!」
「状況は、限りなく俺たちに不利だ。だがやられるにしても、ひと暴れくらいはしてやるさ……無抵抗で食われたり、するものか!」
そう言い捨てて拓海は、背負ったまま一緒に転送されてきたリュックを漁る。
幸い荷物はなくなっておらず、護身用に同梱した特殊警棒も無事だった。
彼はそれを引き伸ばして、正眼に構える。
警棒は鋼鉄製で竹刀ほどの長さがあり、拓海の腕力でしばいたら、大変に大変なダメージを叩き出しそうだ。
四方を警戒する拓海の後ろに隠れつつ、前へ進む。
建物は広大なホールで、壁までどのくらい距離があるのか、わからない。だが進むうちに、ぼんやりと四角い光が見えてきた。
近づくにつれ大きくなる光の正体は、最奥部に壁付けされた巨大モニターだった。
モニターには読解不能な文字列が表示されており、その周りを取り囲むように、電子機器が密集していた。
そして手前には、コンソールと思しき入力装置。まるでSF映画のマザーコンピューター、さながらの迫力だ。
「ふへぇ……でけぇ! まさに中枢本部の指令室って感じだな」
「なぁ桔平。ここは、地球上のどこかだと思うか?」
「いーや、俺は宇宙だと思うね。だってほら、見てみろよ。この文字、歴史の教科書で見たどの言語とも違わなくね? それにこのコンピューター……芥山のピンクボールに、そっくりだろ」
まじまじと観察する正面の機械は、周囲の黒壁と異なり、そこだけがファンシーなパステルバイオレットで塗装されていた。
モノトーンの内装には似つかわしくない、乙女チックな外観。恐らく、所有者の趣味だろうと思われる。
「……にしても、困ったなぁ。誰も出てきてくれないんじゃあ、活躍のしようがないぞ。おーい、誰かー! ここに皆さんご所望の、勇者がいますよー。片手間に世界だって、救ってみせちゃいますよー……って、わわっ!?」
怪物との遭遇を恐れて、セリフの後半は小声で叫んだ桔平の身体が揺れる。地震だ。
地震は、建物全体から発生しているようだった。そしてその揺れを皮切りに、薄暗かった室内が急に明るくなる。
驚く桔平たちの前で、壁のモニターがまぶしく点灯する。
にわかに目覚めたそれは、大量の文字列と音声を高速で垂れ流してゆく。それと並行して多種多様な映像も表示され、その中には芥山や星河市、さらには世界各地の風景も混ざっていた。
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