11人が本棚に入れています
本棚に追加
【1】男の子の半分はロマンでできている
風光明媚な山林の地方都市、星河市。
星が綺麗なことで有名なこの街の郊外へ、クリスマスイブの日の明け方、宇宙からの飛来物が落下した。
地元メディアの報道によると、落下物は隕石、もしくはスペースデブリの類と見られ、大気との摩擦で燃え尽きていなければ、何らかの残骸が残されているだろうとのこと。
落下地点は、住宅街の外れに位置する芥山の中腹。登山道やキャンプ場が整備された、行楽地として人気のスポットだ。
ただし現場は傾斜の急な山肌で、市や警察からは「一般人立ち入り禁止」との通達がなされた。
同日午後、芥山入り口。
星河高校二年生の秋本桔平は、緊急招集をかけたクラスメイト二名を前にして、絶句した。
「お前ら、なんだぁ? その格好」
「申し訳ありません秋本氏。隕石捜索の件は、辞退させて頂きたく」
「止むに止まれぬ事情ができたのであります」
桔平の前で平身低頭して手を合わせているのは、二名の男子生徒。陰気な痩せぎす体型の橋本と、体重百キロ超えの巨漢、田中だ。
この二人と桔平はクラスの身分制度では底辺に当たり、教室の隅で身を寄せ合い、ズッ友同盟を結んでいる間柄だ。
インドア派の彼らは、最初から桔平の誘いに難色を示していたが、「どうせお前らイブに予定なんてないだろ」という突っ込みに心抉られ、自暴自棄的に冬山登山を決意したのだった。
駆り出された橋本たちが、渋々参加しているのは、わかる。だがそれ以上に、彼らの出で立ちは奇妙だった。
「おい橋本。お前の、その格好……ピンクのTシャツに黒ジャケットって、一体何を狙ったオタクファッションなんだよ?」
「ヒィィ、おやめ下され! 折角あつらえた、拙者のスタイリッシュ一張羅が!」
「田中も田中だ。サスペンダーパンツにクソデカ蝶ネクタイとか、売れないお笑い芸人でも目指してるのか?」
「フゴッ、引っ張らないでくださいまし! 無体なゴムパッチンをされると、乳首が! 乳首が!」
「てめえら、何か隠してるだろ! 非モテのお前らに予定が入ること自体、怪しいし……たくらんでること吐け、オラッ!」
「あーれー! 暴力反対でありますぅ~!」
自分より縦も横も大きな橋本たちを相手に、怯むことなく強気で詰め寄る桔平。
やんちゃな子猫を思わせる容姿、そのままに、彼らを睨み、噛みつこうとする……その背後で、ザリッと砂利を踏む音がした。
最初のコメントを投稿しよう!