ルールを決めと書き始め

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「それで、本題に戻るけど……」 「付き合っているということを周りに言うかどうか、ですよね」 「そう」 「自分から宣言すると性格悪い感じがするから、周りにそう思わせていきましょう」 「りょーかい」  氷室くんがにやっと笑う。あたしたちは、それぞれのノートにメモする。 『ルールその一:直接的には、周りに付き合ってるとは言わない。そう思ってもらう』 「じゃあ次。……そもそも、付き合うって、どういうことを言うんだ?」 「それですよねぇえええええ」  これについては、あたしも疑問を持ってた。 「好きです、付き合ってください。いいよ。『付き合う』状態になった後のことですよねぇ」 「そう。両想いだってことは分かった。ただ、そこがゴールじゃない」  付き合うって、どういうことを言うんだろう。何をするものなんだろう? 「恋愛小説とかマンガでは、映画をみに行ったり、ショッピングしたりしてますよね」 「あと、学校の行き帰りを一緒にする、とかだろうな……」  氷室くんが首をひねりながら言う。 「それじゃ、とりあえず登下校を一緒にしてみよう」 「いいですね、楽しそうです」  一緒に学校に来て、一緒に学校から帰る。これだけで、幸せな感じがするよね。 「他にもし、『付き合う』ってこういうことするんじゃねぇかって思うものがあったら、また教え合うとして……」  氷室くんが、ノートにまた何かを書きだす。 『ルールその二:好きな人ができた場合には、解消する』  氷室くんがノートに書き足す。 「どちらかに本当に好きな人ができた場合には、カップル解消ってことで、いいよな?」 「はい、もちろんです」  恋愛にあこがれを抱いているという共通点と、あたしは小説、氷室くんはイラストのために付き合うことを決めたわけだし。  本当に好きな人ができたなら、カップル解消は、当然のルールだよね。  あたしは当分、好きな人なんてできそうにないけどもし、氷室くんに好きな人ができた場合には、応援するつもり。 「他にも必要なルールがあったら、その都度相談して、追加していくことにしよう」 「確かに、実際にやってみないと分からないこともありますもんね。そうしましょう」  あたしは、恋愛自体をした経験があまりないし、『付き合う』ってことをしたこともない。だから、どういったことが必要なのかもよく分からない。 「それじゃ、登下校の話だけどさ。オレ、美術部で部活がある日とない日があるんだ」 「え、美術部に入ってたんですか」 「意外か? そもそもこの学校、イラストマンガクラブみたいな、マンガを描くクラブがないからな。美術部に、マンガイラストを描きたいやつが大勢まじっている状態なんだ」 「へええぇ、楽しそうですね。でも、氷室くん見たさに女子が集まってくるんじゃ……」  そう言いかけると、氷室くんは笑った。 「静かでいいぞ、美術部。顧問の先生が、鬼田(おにだ)先生だから女子たちが入ってくることもねぇ」  鬼田先生は、名前の通り、とても怖い体育の先生なんだ。背が高くて、声も大きい。怒ると、とっても怖いんだ。  確かに、鬼田先生が顧問なら、美術室に部員じゃない生徒も入りにくいよね。 「お前、部活には入ってねぇの?」 「帰宅部です」  部活を決めるために、体験入部っていう時期があるんだけど。その時期、あ熱が出てやすんでいたんだよね。  体調が元通りになって学校に来るようになった時には、体験入部期間も終わっていたから、結局帰宅部になってしまったんだ。 「そっか。それじゃ、オレが部活のない日だけ一緒に帰るようにしよう」 「ありがとうございます」 「部活がない日なら、小説の物語や創作の相談にも乗れるしな」 「助かります」  創作をしていること自体、あまり人に言ってないあたし。  だって、『小説を書いている』ってことを人に言うって勇気がいるから。  それを伝えた時、相手がどう思うか分からないからね。  だから今までは、創作をしない由美ちゃんしか相談できる相手がいなかったんだ。  それが、創作をしている氷室くんという仲間ができた。  もっといい作品が作れるようになりそうで、期待しかないよね。 「悪い、それじゃオレ、部活行ってくるわ」 「わわっ、今日も部活の日だったんですね。ごめんなさい」 「いや。オレが勝手にお前に話しかけるために来ただけだし」  そう言って、氷室くんは図書室から出て行こうとする。 「あ、氷室くん」 「あ?」  ふり返った氷室くんにお礼を言う。 「ありがとう……ございます。気にしてくれて。うれしかったです」  絶対うまく行かないと思って、わざと学校で一、二を争うイケメンに告白したのに。  まさか、こんな形で実を結ぶことになるなんて。  それもこれも、氷室くんが、あたしに興味を持ってくれたから。  その気持ちに、感謝を伝えたかったんだ。  氷室くんは一瞬おどろいた顔をしたあと、笑った。 「……ほんと、変なヤツ。それじゃあな」  彼は、今度こそ図書室から出て行った。
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