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ゴッホン。え~。みなさん、注目!
さっそくですが、わたしの名前は工藤未希。
ペンネームは、阿傘・クリスティーヌ。
言わずと知れた小学生ミステリー作家なのです!
夕ご飯を食べたら、テレビもインターネットも観ずに、毎日毎日机に向かって、一生懸命物語を考えてるの。
……嘘です。少しは観てる。
だって、次の日、学校のみんなとおしゃべりするときの話題についていけないのはいやだもん。
宿題?
ハハ。ハハハハ。やらなきゃ……。
気を取り直して――。
今は新作を書いてる途中!
5年2組のみんなが楽しみにしている『アーロック・オームズ』シリーズの新作のこと。
少年探偵のオームズが強大な敵と難解な謎に立ち向かう小説なんだけど――。
これがすっごく面白くて!
(――い)
みんなも読んだらすぐに夢中になっちゃって!
(おーい)
頭脳明せき、容姿たんれいのわたしが考えて書いた小説なら、おもしろいに決まってるよね!
(おーい!)
ビリッ!
あ! 紙が破けた! 私の完成原稿が!
破けたところから、ステッキの先が顔を出し、その向こうで、男の子がわたしをにらんでる。
黒いハットに、茶色いコート。右手にステッキ、左手に虫メガネ。
そう。この子こそ、わたしが考えたトリックを暴くパートナー――。
「おーい!」
「なによ、もう! さっきからうるさいの! いまはわたしが話してるんだから!」
「なにが『頭脳明せき、容姿たんれい』だ! 無理して難しい言葉を使ってるのがバレバレだ。それに、強大な敵? 難解な謎? いつもかんたんに解決できてつまらないんだ! もっとましな事件をおこしてほしいものだね」
男の子はひょいとジャンプして、紙の端をつかんで、体操選手みたく上半身をぐうっと上げた。体半分、こっちの世界に飛び出している。
「机に積んである『探偵ポアロシリーズ』は全く役に立ってないようだけれど? 『オリエント急行殺人事件』は読んだのかな?」
「読・み・ま・し・た! それに、超、超役立ってますよ!」
「本当かい? だったらもう少しましな設定を考えておくれよ」
この嫌味な、わたしのことをすぐにバカにしてくるのが、天才少年探偵アーロック・オームズ。わたしが生み出したキャラクター。
わたしが小説を書いていると、絶対、途中で横やりを入れてくるの。設定とか、人間界系とか、もちろん肝心の謎解きについても。
わたしが作ったキャラクターなのに、わたしの言うことを全然聞いてくれない。どうしてこんなに生意気な皮肉屋なっちゃったのかしら。
まったく、もう。話を一つ考えるのがどれほど大変なことか。
少しはこっちの身にもなってよね!
「こんなことなら、イギリス人風のイケメンじゃなくて、もっとブサイクな顔にしてやればよかった!」
「な、なんだと!」
「わたしがその気になれば、あなたをチビでブスでデブなキャラクターにだってできるんだから!」
「そんなことしたら、誰も読んでくれなくなっちゃうぞー。ただでさえ、話の中身はスッカスカだからね」
アーロックはわたしに舌を出して笑っている。
あ~! もう怒った!
「アーロックには絶対解けないような、超、超、超難しい謎を用意しちゃうからね!」
「やれるものならやってみな! 作家大先生(笑) この、天才探偵アーロック・オームズに解けない謎なんて……あ、ちょ、何をする!」
ムカついたから、アーロックを無理やり物語の中に押し込んでやる!
「い、痛いじゃないか! やめろって! 落ちる! 落ちる!」
「フンッ! あんたなんか、落ちちゃえ!」
アーロックは紙の端をつかんで離さない。わたしはこんなとき、鉛筆の先でアーロックの指をちょんと刺してあげるの。
「イタッ! 落ちるから! 落ち‥‥…アーーーーーーーーッ!」
「せいぜい、がんばってねぇ! 探偵さん」
アーロックが物語の中に落ちていく。
安心して。死んだりしないから。ここで死んじゃったら、お話が終わっちゃう。
だって、まだ始まってもいないからね!
あ。あと、みんなは勘違いしないでね。
この物語の主人公は、わたしだから!
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