物語の始まり。集められたゲストたち

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物語の始まり。集められたゲストたち

 大きな扉だ。思わず見上げてしまうほど大きい(僕が小さいからじゃないよ!)。  ぼくは扉を叩こうとした。その時。扉がヌウっと開いた。  そこには、タキシードを身にまとった初老の男性が立っていた。 「オームズ様。ようこそ、いらっしゃいました。わたくしはスミス・グリーリッシュ候の屋敷執事、バーナムと申します。ご主人様に代わりお礼申し上げます」  バーナムの礼儀正しい態度や、豪華絢爛な内装に少し緊張した。思わず背筋がピンと伸びる。  ぼくは咳ばらいをして、いつもより低めの声で答えた(その方が大人っぽいでしょ?)。 「ンンッ。こちらこそ、お招きいただきありがとうございます。バーナムさん。私が探偵のアーロック・オームズです」 「さあ、中へお入りください。外はひどい嵐ですので」 「ありがとうございます。ヒェッ!」  扉がダンッと音を立てて閉まった。僕は驚いて思わずその場で硬直してしまった。 「どうかされましたか?」 「い、いえ。いえ。なんでもありませんよ。ハハハハハ」  雷が苦手という特徴を付け加えられたせいで、大きな音ってだけで敏感になっているみたいだ。ったく、あいつめ。  本当ならここでハットやコートを脱いで渡すけど、これはぼくのトレードマーク。失礼にあたるけど、脱がないでおこう。演出上の都合ってやつだ。許してほしい。  さて――。   それにしてもすごいお屋敷だ。  西洋風のごうかけんらんな屋敷。白と黒の大理石がチェス盤のように敷かれている。  天井が高い。  弧をえがいた階段が左右にあり、その中央に吊るされている巨大なシャンデリアに、視線を奪われる。 『頭上注意』。あのシャンデリアが落ちてくる……なんて、まさかね。  この屋敷の主人であるスミス・グリーリッシュ候の肖像画は迫力満点だ。置かれた椅子やテーブル、美術品はどれも歴史的価値のあるものだ。  その中の一つ、首が二つの竜の銅像が気になった。 「これは何ですか?」 「はい。双子竜でございます」 「双子竜?」 「太古の昔に存在したとさせる、この地に残る伝説でございます。人をあざむく竜だったとか。頭脳を二つ持ち、時には二体に分裂し、それぞれ悪さをしたと言い伝えられております」  ぼくはバーナムさんの話にうなずいた。鋭い竜の目が、ぼくをじっと見つめている。  こわくなんかないさ。こわくなんか……。  ぼくはそっとその場を離れる。  見た限り、ここには数字の謎を解くヒントはなさそうだ。 「オームズ様。大広間で、みなさまがお待ちでございます」
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