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ぼくらは、階段を上り、大広間に入った。
ぼくはあまりの広さに言葉を失った。
高級ホテルのフロントロビーのように大きなスペース。
正面奥には、さらに上へ続く大階段があり、上った先は左右に枝分かれして、広間が見下ろせるようになっていた。
美しい幾何学模様の壁にかけられたアンティークライト。
台の上に飾られた花々。
見上げると、ここにも巨大なシャンデリアが吊るされている。さっきのよりも大きいなんて。
広間の両脇に置かれたソファテーブルにはすでに何人かの客人が座っていた。
階段の脇にはメイドが三人立っている。
向かって右のソファには中年の男が一人。
左のソファには女性が二人向き合っている。一人は若く、一人は貴婦人だ。
男の子が一人。貴婦人の横に座っている。
客人たちは一斉にぼくを見た。ぼくは紳士のふるまいで、ニコッと笑ってみせた。
「みなさま、この嵐で到着が遅れております。ここには、運よく嵐の前に到着された方々のみいらっしゃいます。みなさま、お客様同士は初対面だと聞いております」
執事が言った。この中に、事件の犯人いるのだろうか。ぼくはそれぞれの顔をそっと観察する。
強い風が窓を叩く音が、ひっきりなしに聞こえている。
「右手のソファに座っていらっしゃるのが、ゲトー・レインフォスター様。ご高名な弁護士であり、ご主人様の学生時代からの友人でもあります。しかし、お互いお忙しく、お二人が会うのは実に数十年ぶりでございます」
ゲトーの第一印象は立派な紳士だ。不愛想そうだけど、遠くからでも知的だと分かる。ただ一点、前を見つめたまま、パイプをたしなんでいる。。
「続いて、あちらのご婦人。ストナ・ラシュフォード様。ファッションデザイナーであり、お嬢様のドレスをお作りになられた方でございます」
「横にいるのは彼女のお子様ですか?」
「ええ。ご子息のクリミオ様でございます。私の記憶が正しければ、今年で6歳のはず」
「ねえ、ママ! あれが有名な探偵さん?」
「そうよ。いいから、静かにしてなさい」
クリミオは立ち上がり、ぼくの元へ駆け寄った。
「ねえ、探偵さん! そのステッキ触ってもいい?」
「ああ。いいとも」
クリミオは左手でぼくのステッキを握り、フェンシングの剣に見立てはしゃいでいる。
「ほ! ハッ!」
ストナが来て、「こら、クリミオ!」とステッキを奪った。それを僕に返す。
「ごめんなさい。やんちゃな子で」
「どうか、お気になさらず」
「ありがとう、探偵さん!」
二人は元の席に戻った。ストナは振り返り、ぼくを見てニコッと微笑んだ。
きれいな人だな~。気品があって、まさに大人の女性って感じ……。
「イテテテテッ!」
突然、ぼくは自分のほほをおさえた。
急につねられたような痛みが走ったからだ。ッたく。あの女作家の仕業だ。ぼくが女性に見とれていると、いつもこうして邪魔してくるんだ。
ほら、執事が心配そうにぼくを見ているじゃないか。
「どうかされましたか?」
「い、いえ。虫歯が少し痛んだだけです。向かいに座っている方は?」
「あちらは、オウラ・キャンバル様でございます。お嬢様のご学友でございます」
オウラはぼくと目が合うと、さっと視線をそらした。
体が細く、心なしか、ほほも少しこけている。
それを差し引いても、きれいな人だ‥‥…。これ以上言うのはやめておこう。またほほをつねられる気がするから。
「この屋敷で働くメイドが三人。右から、イザベラ、ルーシー、エンダーです」
メイドたちは名前を呼ばれると、深々とお辞儀をした。
「イザベラとエンダーは古参で、ルーシーはつい最近この屋敷で働きはじめたばかりなのですが、本当に優秀です。もちろん、他の二人もですが」
メイドたちは同じ制服を着ている。
みんな、かわい……ィテテテテッ。分かったから! ぼくが悪かったよ!
ほほをおさえるぼくを横目に、バーナムは続ける。
「コックのダンという者もおります。今は、食事の準備のため、厨房におります」
「そして、この屋敷の主人にお嬢様と……。なるほど。少し失礼してもいいですか」
「ええ。もちろんです」
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