第二章

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 僕のミスということもあって慌てて別の感情を五季に共有させて上げたかった。五季はもう自分でヘッドエモーションを持つ気力がなかったので、雨宮が代わりに五季の頭にセットした。雨宮のゴーサインが出たので、僕はその感情を開いた。  五季の顔が徐々に生気を取り戻す。 「ああ、よかった」五季はそう声を漏らして顔を手で覆った。  よかった。僕も深くそう思った。が、安心したのもつかの間、手をどけて再び現れた五季の表情は少し青ざめていた。  不安げな瞳を持ち上げて僕らを見る。 「どうしたの?」恐る恐る僕は訊ねた。また変な感情が交じっていただろうか。  五季は静かにヘッドエモーションを外して僕に差し出した。「つけてみて」そう促されて僕は同じ感情を共有する。  大好きという感情が溢れだした。男子高校生の、その女子生徒が大好きでたまらないという感情。間違いなく好意を向けている。けれども僕の表情も曇った。この好意は明るくて弾むといった、それこそ雨宮の言うきゅんきゅんなんていう表現からはかけ離れている。粘着性があり、どことなく狂気も感じられる好意。爽やかさなんて欠片もなさそうなその好意の正体が僕もわかった。
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