第一章

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 けど感情ファイルを開けずにじっと雨宮を観察していた。雨宮の様子が気になった。ちゃんと部活を楽しめているだろうか。今日だけで飽きてしまって来週には辞めるって言いださないだろうか。  さっき昔の保存形式のことを言っていた。もしかして雨宮は販売初期の感情ファイルに興味があるのだろうか。  気になって雨宮に訊こうと立ち上がろうとしたら勢いよく情報処理室の扉が開けられた。力任せに開けたような音に驚いて視線を向ける。  視線の先には綺麗な女子生徒が仁王立ちで立っていた。僕は目を見開く。それはその女子生徒が号泣しながら大きな嗚咽を漏らしていたからだ。 「わた、わた、わたし」  しゃくりあげて大粒の涙をこぼしている。  女子生徒は手で顔を押さえて泣き崩れた。  僕は慌てて立ち上がるが、どうしたらいいかわからなくてその場でうろうろしてしまう。 声をかけるべきなのだろうか。 けれど大声で泣いている女子生徒にかけるべき言葉を僕は知らない。 なら近づいて何も言わずに彼女の背中を撫でるべきなのか。 いや、僕がそんなことをしたら間違いなく変態だと思われてしまう。
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