第一章

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 さっきから全然話が進んでいない気がする。突然現れた予期せぬ来訪者に部員たちも手を止めて何事かと遠巻きに見守っていた。 「二股なんて普通する? ありえなくない?」  五季が目を真っ赤にして訴える。 「そうだね。信じられないね」  雨宮が同意する。  僕がこのままじゃ埒があかないと思って会話に割り込もうとしたら、雨宮に目で制された。雨宮はもうちょっと待ってというように視線で訴えてきた。  なるほど。意味のない会話の繰り返しかと思いきや、ちゃんと出口に向かっているらしい。僕は口を閉じてふたりの会話を聞き続ける。  それにしてもと思い五季の顔を見た。五季華音は確かドイツ人の父と日本人の母を持つハーフだ。隣のクラスの生徒で、体育の授業が一緒なのでよく覚えている。一生懸命というか体育会系というか。どんな種目でも競技でも常に全力で楽しそうに汗を流していて、声も大きいので自然とみんなの注目を集めていた。目鼻立ちはしっかりしているし、髪も少し癖があるのかウェーブしている。頬に少しそばかすが見えるがそれすらも彼女の美貌に寄与していた。
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