第一章

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 目を真っ赤にして、涙だけでなく口からも鼻からも少し液体を垂らしている今ですら絵になるほどきれいだ。  ただ。  僕は雨宮を見る。雨宮には及ばないだろう。少なくとも僕はそう思う。彼女の透き通るような美しさ、それでいてどことなく幼くて可愛らしい容貌はやはり別格に思えた。雨宮は体育の授業でどんな感じなのだろう。飄々と器用に何でもこなして、それでいて手を抜くときは目立たないように手を抜きそうな印象がある。  そこではっと気がつく。  僕はいったい何を考えているんだろう。目の前で女の子が泣いているのに、どっちが可愛いかなんて容姿を比べて。  こんな状況に直面したのが初めてだから動揺しているのだろうか。  頭を振って落ち着きを取り戻そうとする。  そんなことを考えていたら、ようやく五季の気持ちが落ち着いてきたのか会話が進み始めた。 「それで、どうしてここに来たの?」雨宮が質問する。 「それは、廊下歩いてたら聞こえたんだもん」 「なにが?」
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