第一章

15/37
前へ
/163ページ
次へ
 とにかく彼女に泣きやんで欲しかったし、この場をうまく収めたかった。それに部員の了承も得られそうだし、五季も被害者と言えば被害者だ。二股された者同士で結託して彼氏に文句を言いにいくのかもしれないし、そもそもこんな可愛い子が二股をかけられ続けるのも見たくない。だから二股のもう一人の名前を告げてもいいだろう。もう一人の子も自分が二股されている事実を知るべきだ。  そんなことを思ってたら、予想外の言葉が返ってきた。 「じゃあ、その泥棒猫とわたしの彼氏呼ぶから立ち会ってね」  五季は笑顔でそう言った。  ……ちょっと待って。さっきと言ってることが違うんだけど。  そうつっこみそうになったが、五季の笑顔を見ると言葉が出てこない。この笑顔を泣き顔に変えてしまう言葉を吐くことは僕にはできなかった。  全員でぞろぞろとついてこようとした部員たちを情報処理室にとどめて、僕と雨宮、五季の三人は放課後の空き教室にやってきた。普段委員会などの集まりに使われている教室は今は静かだ。すでに活動を終えている部活動もあるのだろう、外から聞こえる運動部のかけ声も小さい。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加