第一章

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 五季は先ほどと打って変わって怒りを瞳に宿している。五季が呼び出した彼氏と、僕が呼び出した二股をかけられたもう一人、宮崎紗織(みやざきさおり)が来るであろう扉をじっと睨んでいる。  隣に座っている雨宮が小声で僕に言った。 「今さらだけど、わたしパスしたくなってきたよ。女のドロドロに関わって得することはあり得ないね」  彼女の言葉に激しく同意して僕は頷いた。  とその時、扉が開いて一人の女子生徒が中に入ってきた。おずおずといった様子で入ってきた彼女は僕たちを順番に眺め、最後に五季を見て怯えたように顔を伏せた。見ると五季は今にも掴みかかりそうなほどむき出しの敵意を宮崎に向けていた。まさか今から喧嘩でも始める気なんじゃないかと不安になる。  宮崎紗織は小柄で、長身の五季華音と比べたらおそらく頭一個分低いだろう。けれど、その気弱そうな物腰と小さな背格好に似合わず、肌は日焼けしていて髪も短く切りそろえて活発な印象を与えていた。五季華音には劣るかもしれないが、十分彼女も可愛いと周りから言われる容姿だ。  おそらくテニス部に所属しているのだろう。肩に通学鞄とラケットをかけている。
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