第一章

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 宮崎紗織はどうしたらいいのかわからないようで、じっと扉の前でもじもじしている。一応僕からのメールで二股をかけられている疑惑があって、それについて確認したいことがあるから来て欲しいと伝えているので、今から何が始まるのかはなんとなく察しがついているはずだ。  いや。  僕は五季を見る。二股されているもうひとりの女子生徒がいることを伝え忘れていた。五季の怒りの形相を見ると宮崎に申し訳ない気持ちになる。 「とりあえず入って座ったら」  明らかに怒気を含む声で五季が言った。泣くときは感情のままに泣いて、怒るときは怒る。五季の言葉に僕と雨宮まで姿勢を正した。  宮崎は恐る恐る僕の前の席に腰を下ろした。  宮崎と長い机を挟んで僕、雨宮、五季が並ぶ。宮崎が座ったのは五季から一番遠い位置。宮崎は身じろぎせずにじっと下を向いている。  空気がぴりぴりする。  居心地が悪い。  自然と喉が乾いて唾を飲み込む。  やっぱり来なければよかった。今さら面倒ごとに首を突っ込んだことを後悔する。  この場合五季華音はどちらに怒っているのだろう。自分の彼氏だろうか。それとも目の前にいる宮崎紗織だろうか。
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