第一章

18/37
前へ
/163ページ
次へ
 冷静に考えれば宮崎も被害者であり、言ってしまえば五季と同じ傷を負っている。けれどだからと言ってそのまま仲良くなれるということもないだろう。実際五季が宮崎に向けている視線は敵意としか形容できないものだ。  誰も言葉を発しない。  空気が張りつめる。息苦しい。  ふと横を見ると、雨宮は膝の上に小さな握り拳をおいて、身じろぎせずにじっと机の上の一点を見つめている。その表情は固い。  だれでもいいから空気を変えてくれ。そう願ったら、教室の扉が開いて男子生徒が入ってきた。  五季華音を見たときから思っていた。彼女ほど可愛い子を二股にかけるなんていったいどんな男なのだろうと。宮崎紗織を見てさらにその疑問は膨らんでいった。  そしてついにその疑問が氷解した。  まさにイケメン。  思わず世の中の不平等さを嘆きたくなるほど男子生徒の容姿は飛び抜けていた。一個上の高校三年生。雑誌やテレビに出てくるような眉目秀麗な男子生徒がそこにいた。  折原雄矢。  二股という悪事を行っている張本人。世の中には彼女ができることなく人生を終える人もいるというのに、同時に二人とつき合っている男。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加