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「あーあ」五季は天井を仰いだ後、背中を廊下の壁に預けた。「顔はよかったし、優しかったし、わたしのことも好きでいてくれたけど」五季はうなだれる。「これは……ないわ」目線を雨宮に向ける。「それで? わたしに対する好きはどんな種類の好きだったの?」
雨宮は困惑したように小さく笑う。きっと自分の言葉が五季を傷つけることを心配しているのだろう。だからさっきも雨宮は何も言えずにただ黙ることしかできなかったのだ。
「気にしないで。きっとわたしの主観も入っちゃってるから」
「いいよいいよ。今さら変な気つかわなくて」五季はひらひらと手を振る。
雨宮は少しだけ間を置いたあと意を決したように言う。
「多分だけど、華音ちゃんに対する好きは外見に惹かれて自分のそばに綺麗なものを置いておきたいっていう欲望に近かったと思う」雨宮は五季の表情を見て、「多分だよ」ともう一度つけ加えた。
「……そっか」五季は力なく項垂れる。そして、ふらふらと歩き始める。
「大丈夫?」
雨宮が声をかけて一緒に歩き出そうとするが、五季はそれを手で制した。
「ありがとう。大丈夫。ちゃんとふっきるから」
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