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五季は弱々しい足取りで遠ざかっていく。
五季の姿が完全に見えなくなったあと、雨宮がぽつりと言った。
「両想いでも、好きな人がいても、それでも相手が全く同じ恋愛の感情を抱いているとは限らないんだね」
その言葉は五季ではなく、ここにいない誰かに向けられてるようだった。
きっと五季の折原に対する好きと、折原の五季に対する好きは同じ好きという言葉で表せてもその感情は全く別の物だったんだ。
僕はただ黙って地面に視線を落とす。
情報処理室に戻るとほとんどの部員が残っていた。みんな五季がそのあとどうなったのか気になって帰れなかったようだ。
僕と雨宮は質問攻めにあう。他人の恋愛事情を詳しく話すのも悪いと思って、雨宮と顔を見合わせ五季とその彼氏が別れたという事実だけ伝えた。
詳しいことが知りたいなら本人たちに訊いてと言ったら、みんな口々に思い思いの想像を語っていた。
雨宮が帰らずに作業を始めたので、僕もパソコンを起動させる。
彼女の表情がどこか上の空だったので僕は近づいて気になっていたことを訊ねた。
「あのさ、ちょっといい?」
「どうしたの?」
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