第一章

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「さっき10年以上前の感情ファイルのこと言ってたけど興味あるの?」 「うーん。興味があるっていうか、大切にしている感情があるんだよね」 「それを最新の保存形式にしたいんだったら変換する機械あるよ」 「いや、それは大丈夫」雨宮は僕の顔を見る。「大丈夫っていうのは実際にもう変換してみたんだ。けど、どうにもやっぱり違うんだよね」  販売当初の保存形式と現在のはだいぶ違うらしく変換すると多少の誤差が生じてしまう。変換したあとの感情を体験しても同じものと思えないという感想を聞いたことがある。  ただ変換さえしてしまえば、7月にすべてのヘッドエモーションのプログラムが強制的に最新のに自動更新されたあとも引き続き共感することができる。  7月以降も以前の保存形式の感情を共有するためには、きっとそれ専門の研究機関の機器を使うか、もしくは違法な方法を取るしかなくなってしまうだろう。 「もしかして、7月以降もその感情を共有したいってこと?」 「え? そんなことできるの?」雨宮は驚いた顔になる。
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