第一章

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「ありがとう」お世辞だろうとわかっても励まされると嬉しかった。「じゃあとりあえず今日はそれ読んでもらえる? 何かわからないことがあれば何でも訊いてね」  そう言って席を立とうとした僕を雨宮の視線が止める。 「あ。えーと」彼女は少し逡巡するような表情を見せたあと、「ESP部って前の保存形式の感情ファイルも使ったりするの?」と訊ねてきた。 「あーそれは」  今年の7月から10年以上前に保存された感情ファイルは通常のヘッドエモーションで読み込めなくなる。  販売当初の保存形式は質が悪く、脳に与える影響も現代のものと比べて大きいという理由で国が決めて廃止することになったのだ。  脳に異常が見られたという明確な研究データはなかったので、それに対しての反対運動も起こったが、人々の脳を守るためという大義名分がある以上廃止の流れを止めることはできなかった。 「いまは全然使ってないね。みんな新しいやつばっか使ってる」 「そっか」雨宮は少し落ち込むような気配を見せた。
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