秋山ヴィオラは、窓際でまどろむ

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――皇国の興廃、この一戦にあり。  あたしは心のマストにZ旗を掲げた。日露戦争で日本海海戦を勝利に導いた、伝説の四色旗である。 「東郷会長ー。信じてますよー」  一年生たちが、親鳥の出立を見送る雛鳥のような瞳をしていた。 「まかしとけっ。生徒会にマンガ部の創設を認めさせちゃるっ」 「乃々ちゃんなら期待に応えてくれますわ」 「あんたが言うな誰のせいかわかってんのかよっ!」  ヴィオラは「ひっ」と首をすくめた。 「この文化祭に賭けたのに。あんたは、あんたはっ!」  今思い出しても、許し難い所業だ。  旧お固い華族学校の芦乃原高校。マンガ同好会長のあたしは部創設をめざして大好きな戦記物を断ち、ひたすら無害な学園モノと社会派マンガを描き続けてきた。  なのに副会長の秋山ヴィオラが文化祭当日、会誌に自作のBL微エロ同人をはさみ友人に配ったことが判明した。バレれば創部どころかお取り潰し確実のご乱行である。 「でも文化祭テーマは『若人の友愛、精神の自由な飛翔』でしたし」 「だからってあんたが自爆テロ起こしてどうすんのよっ!」 「華萌リリル先生の『B・L・ハイスクール』サトシとミノルのカラミを描くのは勇気がいりましたが、ファン嘱望の場面で……」 「そんな勇気は下水に流せ! あたしが全宇宙で最も許せないのがBLマンガよ。あんたも華萌ナニガシもブラックホールに落ちてしまえっ!」  最大の敵は黒髪の美少女生徒会長、源涼子。  全校模範のお嬢様、カタブツで有名だ。 「あたしは勝つわ。帝国元帥ひいじっちゃんの名にかけて」 「パクリはさておき、東郷元帥と乃々ちゃんに縁戚関係はないはずですけど」 「うるさい! これは気合よ気合っ!」  あたしはオロカな副会長を振り返らず、乱暴に扉を閉めた。
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