17人が本棚に入れています
本棚に追加
「夏の夜は素晴らしいものが多い。夏のせいにして、こうした有意義な時間を過ごせるのだから」
火の粉が散り終えた空を見つめながら、天沢がぽつりと言葉を落とす。
胸の奥がギュッと狭くなって、熱くなる。
どんな告白よりも、心に響いた。私と見た景色を、貴重な時間に入れてくれたのだから。
「……今度こそ、ほんとに負け。天沢がぜんぶ言っちゃった。もう、他になにも思いつかないや」
あーあと空を仰いで、ベンチからタンッと飛び降りた。
ズルいよ。勝って花火大会に誘う計画だったのに、全て持っていっちゃうんだから。
「来年の花火も一緒に見よう」
一瞬だけ、風も音もなくなって公園の時が止まった。聞き間違いじゃ、ないよね?
「俺が勝ったら言うと決めていた。有無は言わさん」
「それ、私で……いいの?」
「椎名がいいんだ。どうだ、ほどよい罰ゲームになるだろう?」
さらっと笑った顔に、降参の旗を上げる。
やっぱり、私は天沢のことが好き。顔や声はもちろん、不器用でえらそうでまっすぐな性格もぜんぶ。
「最っ高の罰ゲーム」
さっきより距離のない位置に座って、ドキドキ跳ねる心臓を押さえた。
そっと近づけた手を引っ込めて、二人空を見上げる。
「あ、流れ星!」
「どこだ?」
「もう消えちゃった。天沢、全然違うとこ見てるし」
「なんだと? 椎名が方位を言わないからだ」
「指差したじゃん。今度こそ、天沢に勝てますようにって祈っておいた」
「なに? 次はどんな勝負をするつもりだ」
「その賢い頭で、よーく考えてみて」
腕を組んで首を捻る姿に、耐えきれず吹き出した。
──この恋の決着は、もうしばらく先になりそう。
fin.
最初のコメントを投稿しよう!