決着は夏の終わりに、

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「で、お題は?」  筆記用具を片付けながら、メガネの前で青みがかった黒髪がさらりと踊っている。いつもながら美しい。 「すばり、夏の夜なんてどう?」  意味なく立てた人差し指をサッと下ろして、手のひらをパンと叩く。今の季節にぴったりよね、と有無を言わせぬ圧をかけた。  参考書とノートを閉じてリュックへ入れると、天沢は無駄に長い足で立ち上がり。 「決まったなら場所を変えよう」  軽やかにターンして教室を出て行くから、私も慌てて後に続く。 「えっ、わざわざ? そんな時間取らせないから。天沢は勉強もあるし」  髪を手ぐしで整えつつ、膝上のスカートを押さえた。  こうして並ぶと、身長の差が歴然だ。20センチくらいはあるんじゃないかな。  前を向いたまま玄関へ着くと、天沢は涼しげな表情で革靴を取り出す。自前の靴べらをかかとに滑らせると、シュッとリュックの脇に刺した。 「いや、やるからには真剣勝負だ。ここでは集中できん」  あたかも日本刀をしまい込んだみたいな鋭い顔をしてるけど、靴べらだからな?  心の中でツッコミながら、帰り道を行く。最寄り駅へ着くまでの間、さっそく試合開始のゴングが鳴った。 「夏の夜と言えば、やっぱスイカだよねー! 塩かけると甘さが際立つからオススメ」  まずは、私が先行。当たり前だけど、初めはなんなくクリア。  それとこのゲーム。相手が何を考えているかや生活環境まで知れちゃうかもという、一石二鳥の優れものなのだ。 「蚊取り線香」  淡々と言ってるけど、どこで使うんだろう。天沢って、勉強ばかりしてるイメージだけど、庭に出て星とか見たりするのかな。  想像してみたら、勝手に浴衣とか着せちゃって、悪くないなとひとりでうなずく。 「えーっと、シャワー! お風呂に入るの熱くて、ついついシャワーになっちゃうんだよね〜」  半身浴を頑張った時期もあったけど、三日坊主の私には続かなかった。 「俺はいつも41℃の湯船に肩まで浸かっている」 「……ま、マジで?」 「マジだ」  すごいと感心しながら、チラッと盗み見た横顔の顎ラインが美しい。なにか肌のお手入れでもしているんだろうか。 「流しそうめん」
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