17人が本棚に入れています
本棚に追加
「流しそうめん?」
「夏の夜の必須アイテムだ。うちはよく夕食に出てくる」
「ただのそうめんじゃなくて、流す方の?」
「竹で流さないと意味がないだろう。その過程で冷やされてさらに美味くなる」
納得できるような、どこかズレているような。そもそも、普通の家庭で竹から流すそうめんをやるなんて、100件中何件あるのかって話よ。
何往復したのか分からないけど、電車に乗ってからもずっとゲームは続いた。
天沢ったら、なかなか降参しないんだもの。これは強者だ。油断したら、こっちが負けてしまいそう。
結局、決着のつかないまま、私の降りる駅になってしまった。
「天沢強すぎ〜。すぐ勝てると思ったのに」
「俺を見くびってもらっては困る」
「ただのゲームだけどね」
内心、がっくりしている。だって、花火大会の約束をこじつけるはずが、そんな空気にちっともならなかった。
それどころか、天沢のやる気スイッチを入れてしまったらしく、絶対に負けないオーラがぷんぷんしていた。こんなの想定外だよ。
「続きはまた明日だな」
「えっ、明日もやるの?」
「当たり前だ。これは勝負だからな。互いの言ったワードも全て記憶しているから問題ない」
「……すご」
引くべきなのか、尊敬するべきなのか。まだチャンスは残っているのだから、良しと捉えるしかない。
ホームに降りて手を振りながら、ハッとする。
あれ……? これって、一緒に帰ったことになるんじゃ……?
一瞬にして夕焼け色に染まった頬は、人目をはばからず、しばらく緩みがおさまらなかった。
最初のコメントを投稿しよう!