決着は夏の終わりに、

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*** 「怖い話!」 「セミ」 「……うーん、キャンプ!」 「茄子(なす)胡瓜(きゅうり)」 「……なに、それ?」  翌日の終業式。帰りの電車で話しながら、思わず顔が前に出た。  夏の夜をテーマに連想ゲームをしていたはずだけど、なぜか野菜の名前が聞こえたのだ。スルーするわけにはいかない。 「精霊馬(しょうりょうま)だ。知らないのか。割り箸で足をつけて、盆に供えるだろう」  整った鼻筋の上にメガネを戻して、天沢は得意げに言ってのける。  誰でも知っていて当たり前的な口調が憎らしいんだよね。憎らしいけど、愛おしい。ほどよく落ち着いた声もドストライクなんだな。 「そんなの見たことないよ。夏はいいとして、夜に関係あるの?」 「ご先祖様は朝に来て、夜に帰られるはずだ」 「あ、そう」  じっと見つめていたら、分からなくなってきた。私って、天沢のどこが好きなんだろう。  頭がいいのは、微量のプラスとして。空気が読めなくて変わり者。偉そうな口ぶりは、たまに腹が立つ。うんちくも理解できないし。 「なんだ。俺の顔になにか用か?」  それなのに、じとっと送られる視線すら色っぽく感じるなんて。  まさか、顔とスタイルと声だけ……⁈  それも真っ当な理由よ。タイプなんだから仕方ないじゃない。 「イケメンの無駄遣い」  ボソッとつぶやいたから、天沢には聞こえなかっただろう。すぐに前を向いて、次の答えを考え出したから。  芸能人を見る目と同じなんだと、開き直る。  何かに集中してる目も、カッコいいんだよね。こんなくだらないゲームに真剣になっちゃって。  それはそうと、花火大会というワードを天沢に言わせたいがためにずっと温存してるのに。あと数分で、私の降りる駅へ到着してしまう。  どうしてあんな簡単な連想を思いついてくれないの?  この人の頭の中には、花火や夏祭りという単語はないのか。 「これじゃあキリがないよ」 「降参か?」 「まだまだ! 私には負けられない理由があるの!」 「そうか。意気込んでるとこ悪いが、夏休みはほとんど塾だ」 「じゃあ続きは新学期ね。いくら天沢でも、それまで覚えてられる? 合わせて何百個言ったかなぁ」  指を折って数えながら、とんでもないことに気づいた。  いやいや、なんのためにゲームしてるのよ。花火大会は夏休みにあるの! 二学期に繰り越したら意味がない……。 「電話ならできる」 「え?」  電車の速度がゆっくりになって、ガタンと停止した。 「毎日は無理だが、たまの夜に電話する」 「……う、うん。わかった」 「そこで決着をつけよう」  ホームへ降りて、スマホを握りしめたまま天沢の乗った車両を見送る。  これは一大事だ。自分からは恥ずかしすぎて聞けなかった電話番号を、あっさり手に入れてしまった。
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