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「怖い話!」
「セミ」
「……うーん、キャンプ!」
「茄子と胡瓜」
「……なに、それ?」
翌日の終業式。帰りの電車で話しながら、思わず顔が前に出た。
夏の夜をテーマに連想ゲームをしていたはずだけど、なぜか野菜の名前が聞こえたのだ。スルーするわけにはいかない。
「精霊馬だ。知らないのか。割り箸で足をつけて、盆に供えるだろう」
整った鼻筋の上にメガネを戻して、天沢は得意げに言ってのける。
誰でも知っていて当たり前的な口調が憎らしいんだよね。憎らしいけど、愛おしい。ほどよく落ち着いた声もドストライクなんだな。
「そんなの見たことないよ。夏はいいとして、夜に関係あるの?」
「ご先祖様は朝に来て、夜に帰られるはずだ」
「あ、そう」
じっと見つめていたら、分からなくなってきた。私って、天沢のどこが好きなんだろう。
頭がいいのは、微量のプラスとして。空気が読めなくて変わり者。偉そうな口ぶりは、たまに腹が立つ。うんちくも理解できないし。
「なんだ。俺の顔になにか用か?」
それなのに、じとっと送られる視線すら色っぽく感じるなんて。
まさか、顔とスタイルと声だけ……⁈
それも真っ当な理由よ。タイプなんだから仕方ないじゃない。
「イケメンの無駄遣い」
ボソッとつぶやいたから、天沢には聞こえなかっただろう。すぐに前を向いて、次の答えを考え出したから。
芸能人を見る目と同じなんだと、開き直る。
何かに集中してる目も、カッコいいんだよね。こんなくだらないゲームに真剣になっちゃって。
それはそうと、花火大会というワードを天沢に言わせたいがためにずっと温存してるのに。あと数分で、私の降りる駅へ到着してしまう。
どうしてあんな簡単な連想を思いついてくれないの?
この人の頭の中には、花火や夏祭りという単語はないのか。
「これじゃあキリがないよ」
「降参か?」
「まだまだ! 私には負けられない理由があるの!」
「そうか。意気込んでるとこ悪いが、夏休みはほとんど塾だ」
「じゃあ続きは新学期ね。いくら天沢でも、それまで覚えてられる? 合わせて何百個言ったかなぁ」
指を折って数えながら、とんでもないことに気づいた。
いやいや、なんのためにゲームしてるのよ。花火大会は夏休みにあるの! 二学期に繰り越したら意味がない……。
「電話ならできる」
「え?」
電車の速度がゆっくりになって、ガタンと停止した。
「毎日は無理だが、たまの夜に電話する」
「……う、うん。わかった」
「そこで決着をつけよう」
ホームへ降りて、スマホを握りしめたまま天沢の乗った車両を見送る。
これは一大事だ。自分からは恥ずかしすぎて聞けなかった電話番号を、あっさり手に入れてしまった。
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