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あれ以来、一回も電話はかかって来ていない。期待しすぎるのは良くないけど、極端すぎて気持ちがついていけてない。
やっぱり怒られたのかなとか、迷惑だったんじゃないかって、不安ばかりが襲ってくる。
自分から掛ける勇気はない。出てくれなかったら、それこそメンタルがやられてしまう。
八月も下旬に入った頃。いつメンに紛れて、珍しい名前がピコンと表示された。絵文字もスタンプもない素っ気ない文字。
──今から、少し出て来られるか?
半袖とハーフパンツの部屋着に、くるくるの団子頭を鏡越しに見る。
今日は友達との予定がなかったから、地球が震え上がるほどのダサさだ。こんな姿、天沢に逆立ちで世界一周してやると言われても見せられない。
──すぐはムリ。最低20分は時間ほしい。
せっかく会えるチャンスなのだから、超特急で支度すればなんとか!
──野暮用で、椎名の家の近くにいるんだが。
画面を見つめながら、おもむろにスマホをベッドへダイブさせる。
そんな突然言われても、女子はいろいろと下準備が必要なんだよ!
なんとか髪を整えて、メイクを施し天沢の待つ公園へ向かった。時間が足りず、つけまつ毛をできなかったのが心残りだ。
薄暗くなった空の下。ベンチに座る天沢の姿を見つけて、大きく手を振る。
もっとぶっ飛んだ私服を想像をしていたけど、いたって普通の格好だ。しかも、メガネをしていない。汗を拭うために前髪をかき上げた仕草も絵になる。
「そろそろ決着をつけようと思ってな」
「そんなとこだろうと思ったよ」
隣に腰を下ろして、ため息を吐く。
この人に色恋を求める方がいけないんだろうけど、もう少しいい雰囲気をかもし出してくれたっていいじゃない。せっかく夏休みに会ったんだから。
一昨日、花火大会は終わった。ゲームの目的は、もう消えてない。する意味なんか、なくなっちゃったんだよ。
「……浴衣」
こんなくだらないゲーム、早く終わらせたい。隠しておく必要がなくなったから、さっさと負けて帰ろうとした。
「花火大会」
天沢の口から、思いも寄らない単語が飛び出て二度見する。
そっか。今の私の答えで、思いついたってことか。
「……遅い」
ぽつりと出た本音は、声が少し震えた。泣きはしないけど、だんだん虚しくなってきて。
「遅いとは、夏の夜に何か関係あるのか?」
追い討ちをかける空気の読めなさ。さすが、天沢薫だ。一周回って、笑えてきた。
「花火大会、もう終わっちゃったの。だから、私の負けでいい」
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