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真夏の生暖かい風が吹いて、私の髪をさらっていく。
「それは、降参ということか?」
そうだよと、半ば投げやりな口調になった。可愛さのカケラもない。もともと、私が好かれる要素なんてないんだけどね。
大体の男子は大人しい子が好きって聞くし。騒がしい女子は、視界に入れたくない邪魔者だよ。
天沢も例外じゃない。いつも私が近づくだけで、向こうから話しかけられたことなんて一度もない。
「約束だから、なにかひとつお願いしていいよ。大学受験の参考書にする? それとも、迷惑だからもう話しかけんなでもいいよ」
ハハッと笑って、から元気に振る舞う。いっそうのこと、拒絶された方が忘れやすいかもなって。
「本当はまだ言えるだろう」
「……え?」
「これは試合放棄だ。真剣に勝負している俺に、申し訳ないと思わないのか」
たいそうなことを言っているようで、内容はゲームの話なんだけどな。
腕を組みながら、細めた目でこっちを見ている。メガネがないのに、間違えて上げかけたのを見逃さなかった。
「悪いとは思うけど。もう、ゲームする理由なくなっちゃったし」
これで、電話や会う口実もなくなるわけで、またふりだしに戻る。私らしい結末かな。
気付けば辺りは、黒い絵の具をこぼしたような空をしていた。そろそろ潮時かと、立ちあがろうとしたとき。
「俺はまだ続けたい。できれば、二学期に入っても」
静かに落とされた言葉に、思わず吹き出した。
「ええ、そんなに? 相変わらず、天沢って」
変わってる。そう言おうとしたら、曇りのない瞳がまっすぐ向かってきて。
「理由がほしい」
あまりに真剣な顔をするから、瞬きがスローモーションになった。目を逸らせないでいると、続けて。
「椎名と話す理由だ。もっといろんな話を聞きたい」
トクン、トクンと心臓の音が体中に響く。
天沢がそんな風に思ってくれていたなんて、知らなかった。
そのうち、夜空がパッと明るくなって光の花が咲いた。遠くにキラキラと輝いているのは──。
「……花火だ」
ヒュルルと上がって、立派な輪を描いている。花火大会は終わったはずなのに、どうして?
「そういえば、今年から復活したらしいな。聖川の納涼祭」
「えっ、あの野外映画? じゃあ、この花火って」
ああ、と天沢が空を見上げる。記念すべき日のために上げられた、祝福の証だったんだ。
「素晴らしい」
二人で眺める花火は、小規模でわずかな数だったけど、今まで見てきた中で一番キレイに感じた。
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