序章

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 そんな伽耶の表情を見て、ハルカが「ふふっ」と声にして笑った。  今度は伽耶が、そのハルカの笑い声で笑顔になる。 「ふふっ、可笑しいでしょう。でも、ちょっとだけ楽しかったよ。だってもう二度と、ハルカの邪魔はしないように、よく分からせておいたから」  ハルカが初めて会った時に“天女のよう”と形容した、可愛いと言うより綺麗な面差しに華のような笑みを浮かべながら、伽耶は不穏な言葉を軽やかに紡いだ。 「伽耶、もう大丈夫。危ないからこっちへ来て。あたしの側に来て」  と、両手を差し出して待っているハルカ。  そして、伽耶は“知っていた”けれど、躊躇することなく踵を返した。                  ※                  ※  笑顔は作れない。  笑顔は苦手だ。上手く笑えやしない。  けれど、今日は違う。  だからきっと、自然に笑ったような顔になっていたのだろうとハルカは思った。  何故そんな事を思ったかと言うと、クラスメートに声を掛けられたからだ。 「印波(いんなみ)さん、何か良い事でもあるのかしら?」  休み時間、自分の席で頬杖をついて、ぼうっと座っていたら、そっと肩を叩かれた。 「えっ」  突然の事に、豆鉄砲を食らった鳩のように目を(しばた)かせると、声を掛けて来たクラスメートを振り仰ぐ。  その様子に、 「ごめんね、驚かせちゃった?」  と、クラスメートは笑顔で謝った。  ――この人は確か……、クラス長の――  ハルカはそんな事を考えながら「いえっ」とだけ返事をした。 「転校してきて暫く経つのに、ずっと緊張しているような面持ちだったから。でも、今日はにこにこしていて良かったなって思ったの」  そう言うクラス長の言葉には、別に他意はないようで、ハルカにとって息苦しくなるような“負の感情”などは感じられなかった。 「にこにこしていましたか? あたし」 「ええ、とても。何か楽しい事があるのね、きっと」  クラス長は、別に理由を問い質してはいない。なので、詳らかに告げる必要はないのだと思ったけれど、殊更、隠しておきたい訳でもなかったので、結局ハルカは彼女に理由を言った。 「今日は面会に行くんです」 「面会?」  クラス長は小首を傾げる。 「ええ、遠くの病院に」
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