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文庫瑠璃が民俗学部の部室に入ると、星宮部長が床の上に横たわって泣いていた。
「どうしたのですか?星宮先輩」
「俺はもう死ぬ」
「コロナに感染したのですか?
熱は?」
「無い。無症状だ」
「検査結果は?陽性なのですね?」
「行き付けの医院には検査キットが足りなくて、検査出来なかった」
「では、陽性かどうかは分からないでしょう。感染したとする根拠は?」
「唐辛子ラーメンを食べたら、喉がピリピリするんだ」
「それは感染ではないでしょう」
「頼む。文庫の家に伝わるオマジナイをやってくれ」
文庫の母方の曾祖母は病気を治すマジナイ師であったという。
ある日、家の前に倒れている僧侶を見付け、介抱してやると、御礼にとこのマジナイを教えてくれた。真言宗の信貴山が近いため、其処から来た旅僧だろうと文庫瑠璃は推測していた。
曾祖母の自宅は生駒の宝山寺の近所にあり、其処は、空海や賀茂役小角の修行寺だったというのだ。旅僧も、この寺を目指していたのかもしれない。そして、最近、母方の祖母の家で不思議な事が起きた。
文庫瑠璃の不思議な話し。
[出入りする謎の僧侶]
「知らないお坊さんが出入りしている」
聞く所によると、伯母の家に見ず知らずの僧侶が勝手に出たり入ったりしているらしい。
叔父曰く、そう云えば思うところがある様だ。叔父が美術館で開催された空海展に行き、貰って帰ったポスターを貼って置くと、兄の雄三伯父さんが、ポスターから僧侶が現出するのを目撃したのだ。伯母がポスターの空海に手を合わせていると、スーっと煙が吹き出し僧侶の姿に変わったという。以来、伯母の家では、出入りする僧侶が目撃される様になった。
深夜、伯母が目を覚ますと、隣の部屋で寝ている叔父の枕元に天井まで届く程に背の高い僧侶が、眠る叔父を見下ろしていた。
有難いモノなのか不吉なモノなのかは分からない。が、叔父は此の後、脳出血で倒れた。
御迎えだったのだろうか。雄三伯父さんが件のオマジナイをやって、叔父は回復しつつある。
「此の枕元の僧侶が空海だと仮定すると、叔父さんを助けてくれたのかもしれない。が、脳が出血するのは防いでくれなかった。所謂枕元に立つ死神だとすると、死神対伯父さんのオマジナイの対決になるワケだ」
「家に出入りしている僧侶と、ポスターから現出した僧侶は?」
「叔父さんを助けるために現出した旅僧と言った所か。
曾祖母に余程良くされたのだろう。曾祖母の子孫を助けに現れたのだろう」
その後、星宮はラーメンが食べたくなって下校した。唐辛子ラーメンは止めておく、と文庫と約束して帰って行ったという。
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