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第八話 ガクの話
「作戦会議です!デューク様!」
いつもの月曜日の朝――。
アパートの外には、通勤や通学で沢山の男女が行き交っている。
デュークもそんな気だるげな社会人の1人だ。
銀色の髪をとかして、洗面所で歯磨きをするデュークに、付き人であるギルバートは熱意を込めて言う。
「ブラッドに対する対策をすべきです!
昨日だって、なんだかんだかこつけて、あの後寝てたじゃないですか!」
「あー、うるせえな。朝から。
俺はこれから6連勤なんだよ。日曜くらい休んだって、バチは当たんねえし」
「あ、また言い訳ですか!
そんなんじゃ、またブラッドにしてやられますよ!」
その言葉に、キッと眉を寄せてデュークが反論モードに入る。
「6連勤からの9時5時だぞ、お前。
平常でいられるか!」
「そんなん人間界じゃ普通です!
てか、デューク様がこの世界作ったんでしょ!」
「――――――――っっ!!
俺は土台を整えただけで、勝手に人間が繁栄したんだよ!」
「まぁた喧嘩してんすかぁ?
やめましょーよ、朝っぱらから」
バリバリと棚にあった煎餅を食べながら、そう言う痛んだ金髪の男はガク――201号室に住んでいる19歳の大学生だ。
おしゃれな3本のピンを留めた前髪から覗く、イタズラっぽい大きな瞳を細めてガクが笑う。
「よく人の煎餅食べながら言えたな。
つーか、いつ入ってきたんだ、お前」
「え、鍵空いてたからよゆーでしたよ」
「…………」
しばらく見つめあってガクと心理戦をしていたが、デュークは呆れたように壁に掛けてあったカーディガンを手に取り、2人を残して玄関へ向かう。
「分かったよ、ギルバート。
帰ってからまた話聞いてやるから、お前はブラッドに関する資料を集めろ」
「!」
一気に顔が明るくなり力強く頷く。
「了解です!!」
「んじゃな、出迎えはいいぜ」
デュークが家の玄関を開け、外へでながら言った。
「了解です!!
元よりこっから動く気ないです!」
「…………ああ、そうかよ!」
バタンと玄関の扉が閉まったのを見て、あぐらをかいているガクが煎餅を食べ続けながら言う。
「行っちゃいましたね、そーぞーしゅさん」
「ええ」
「寂しいっすか?」
「まあ少し」
「ふーん」
「………………」
「………………」
沈黙に耐えきれなくなって、叫ぶようにギルバートが言う。
「ガッ!ガクさんは学校に行かないんですかっ?もう始まってる時間ではっ?」
「やだなー、ガクでいいっすよー。
年上だし、ギルバートさんの方が」
そういつものように軽く言った後、少し間を置いてガクが続けた。
「……今日は休みなんす、大学」
「……へ、へえ〜。休みですか。
たしか、ガクさん専門学校でしたっけ?暇な時間とかあるんですね」
「ありますよ。試験前とか、暇なこと多いし」
そう言った後、ガクがにやりと笑って尋ねる。
「そーいや、ギルバートさんは何してる人なんすか?ここ最近、ずっといるし、ニートかなんかすか?」
「に、ニートじゃないです!
ニートだけは違います」
人間時代、ギルバートは一瞬だけニートになったことがあった。その時の周りからの罵詈雑言を思い出し、キッと叫ぶ。
「ふーん? じゃあ何してる人なんすか?」
「ニートじゃなくて……まあ。
訳あってこちらに長くとどまれることになりまして……旅行みたいな。」
「へーえ……? まあ、いいっすけど。
にしても、ギルバートさんがあの立石さんの思い人?のヨウキャと知り合いなんて驚いたなぁ。絶対接点ない人種だと思ってたのに。」
「……どういう意味――こほん。いや、あいつとは学友だったんですよ。昔のね」
「ふーん?
あの人と学友ってことは、ギルバートさん、医療関係者なんすか?」
「え?」
「だって、あの人、よく病院にいるんですよ。
よく病室から出てくるの見たことあるっす」
「!」
ギルバートは目を丸くする。
まさか……。
ブラッドの言葉を思い出すギルバート。
『仕事できたんだ。まあ、予定より少し早いけど。
正確には、そろそろ死ぬ魂を観察しに来た』
ブラッドの所属は、お迎え課はお迎え課だけど、正確には少し違う。残虐性を更生すべく、安らかに家で老衰した人間のみを迎えに行く老人課なはずなんだ――。
「ふ、ふふ。」
「ギルバートさん……?」
心配しながら顔を覗くが、ギルバートの顔があまりにもゲスすぎて、心配するのをやめるガク――。
「ふ、ふへ」
ハデス様に報告だな…!!
なんやかんや、余罪も加えてやろ。
してやったりだ! やっと恨みを晴らせる時が来た!!
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