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ブチブチと皮膚が裂かれていく音と悶えるほどの激しい痛みに包まれ、ベッドへうつ伏せに倒れ込む。鼻息を荒くしながら顔を持ち上げると、鏡張りの天井に哀れな自分の姿が映っていた。
「……菜実。なんで……」
血に染まった背中に刻まれている『ひ』の文字。霞んでいく意識の中、ナイフを振り翳している鬼の面を被ったような表情の女性が見えた。
『こ』『ろ』『し』『あ』『ひ』の五文字。その言葉の意味を考える力さえも失われていく中、走馬灯のように同窓会での思い出が蘇ってくる。
昔と全く変わったいなかった皆の笑顔。想像以上に綺麗になっていた菜実。幹事不在のためセルフサービスで注いだビール。弁護士になったという狩山。名前を忘れられていた“アゴシ”――。
「そうか……そうだったんだ……」
最後の力を振り絞るように、掠れた声を出して仰向けになる。返り血に塗れた女性の光のない冷徹な目を真っ直ぐ見て、賢吾は唇を震わせながらゆっくりと言葉を紡いだ。
「……小芦。小芦紘だったんだな……」
振り下ろそうとしていたナイフを止め、手を小刻みに震わせた女性。憎悪の眼差しを賢吾に向けながら、息を整えるようにゆっくり口を開いた。
「ようやく思い出してくれたみたいね。私の本当の名前を――“アゴシ”ではなくて、“小芦紘”っていう本当の名前を」
紘が両手でナイフを持ち振り翳した瞬間、肌を覆っていたバスタオルがはらりと脱げ落ちた。意識が朦朧としている中、紘の腹に刻まれた『アゴシ』と読める痛々しい傷跡が賢吾の目に飛び込んできた。
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