ザリオ

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 目視できるが距離はある。戸惑いながらも交換された刺繍入りの布地も相当重いので、クレールは頷いた。 「馬が必要、絶対!」  改めて主張するのを忘れない。誰が持っても重い荷物だ。馬の力と車輪に頼るのが最適だった。 「神仕長様がお許しにならないわ。『怠けるすなわち堕落の一歩、神がお嘆きになります』」  ウルラは澄ました顔を作り神仕長トカのしゃがれ声を真似した。  クレールはウルラのこういうところが大好きだった。神仕は基本トカの言葉が絶対なのに、ウルラだけは二人のときは戯けてみせてくれるのだ。それは母娘のような関係を築いてきた二人だからこその信頼があるからだった。 「でも街の人は皆使っているわ。それを神はいちいち咎めたりしないじゃない? 古すぎるのよ、神仕長様は」  二人はカゴの重さに耐えながら歩いていく。初夏の陽射しにしっとりと汗ばんで、時々額の汗を拭う。 「自分だけ涼しい館内で澄ました顔でお茶を啜っているのよ。なんで力仕事をしないのかしら。おばあさんだって街の人はちゃんと働いているのに」  ボヤくのが止まらないクレールに「クレールったら……」とウルラは言うが止めなさいとは言わなかった。 「ウルラだって不満はあるでしょ?」 「うーん、そうね。こんな風に暑い日は腕まくりすることを許してほしいかしら」 「あ、私はね、水仕事をするフリをするの。そうしたらずっと腕を出していられるし」  フフと笑いを漏らすウルラに、クレールも笑ってみせる。
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