五十二

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五十二

 くわしく話を聞くと、どうやら私がベルーガ王子の呪いを消したらしい? それもタオルで雑に拭き取ってしまったとかで、そんな事を言われても信じられない。    先輩は、どうにか逃げようとする子犬ちゃん――ベルーガさんを持ち上げたまま、感心している。 「さすが、ルーだな、ラエル。あの呪いをタオルで拭き取るって……凄いな」 「そうだね、兄貴」    ……その時、女性の声が聞こえた。 〈そんなの嘘ですわ。私の呪いが、タオルなんかで拭けるわけない。たまたま解けたのよ〉 「あ?」 「ゲッ……」  この声って鉄格子の中に捕まっていたとき、イアンと話していた女性の声だ。あのときイアンは黒魔女と話していたんだ。 〈なにもしないから、ココからだしてよ……窮屈なの〉 「はいはい、そんな嘘に騙されないよ。兄貴、黒魔女が目を覚ましたみたい」   「ハァ……ずっと、寝ていりゃよかったのに」  昨夜、ラエルさんがグルグル巻きの木の箱を、紅茶が乗るテーブルに置いた。 「おい、ラエル。それを、こんなところに置くなよ。ルー、その箱を触るなよ」   「うん、わかった」   〈やだ、つれないこと言わずに娘、さわってよ。なんでも一つ夢を叶えてあげるからさぁ。あぁ、あなたの体から溢れ出てくる魔力、いい香りがする、濃厚で美味しそうだわ〉  ――私の体から、溢れでてくる魔力が美味しそう? 「バカなことを言うな。お前は国に帰ったら即、国王陛下に渡す。ラエルこの不愉快な箱しまうぞ」 「どうぞ」 〈嫌よぉ、もっと、お話ししましょう。娘、女性どうしで恋の話とか? あなたの魔力の話とか〉 「え? 私の魔力?」  魔力と聞き食いつく私に。   「黒魔女、それ以上ルーに何も言うな。こっちは伝えるタイミングを測ってんだ!」  先輩が黒魔女が封印されている箱を掴み、壁に向けて投げたのだけど、その箱は空間でフッと消えた。  これって、まさか…… 「……アイテムボックス?」  実際に目で見ると、こんな風に見えるんだ。ファンタジーだと画面でしか見れなかったから、感動。   「え? 俺のアイテムボックスが見えたのか?」   「うん、見えたけど……」 「……そうか、見えたか。……ハァ、もういっちまうか。よく聞け、ルーは魔力なしなんかじゃない。鉄格子と壁、天井を壊したのは杖の威力じゃなくて……ルーの魔法だ」 「私の魔法? うそ、私は魔力なし……学園で測った魔力測定器に反応がなかったわ」  先輩が首を傾げなら、腕組み。 「んー、それについてはよくわからない……俺の考えは。ルーは王妃教育に縛られ、カロール殿下が離れ、周りに魔力なしとも言われて……心はズタズタ、ボロボロで休めていなかった。――2年にあがってカロール殿下から離れ、好きな魔法に触れて、心に休息と余裕ができて、本来持っていた魔力芽生えたのかもな」 「心に休息と余裕? そうなのかも、2年になってシエルさんと出会って、好きな魔法が見れて、好きな魔法に触れ癒された――シエルさんが私に魔力を芽生えさせてくれたのかな?」 「ちょっと、大袈裟かもしれないけど、ありうるよな」 「そうだね、学園ではルーチェさんの心は傷付くことばかりで、心に余裕がもてなくなり、本来の力を隠してしまったのかも」  みんなで頷いた。
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