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 婚約破棄あと。王都から一時間かけて屋敷へともどった私は、両親にかえりの挨拶もせず、部屋に駆けこみ必要な荷物をまとめはじめた。 (持っていくものはワンピースと……)  クローゼットを開き、ワンピース数着と下着。あと、貯めていたお金をカバンに入れないと。  私の罪が決まる前、婚約破棄を知った両親に屋敷を追い出される。二階の部屋でせっせと荷造りしていた。  そこに。 「ロジエ公爵、ルーチェ嬢はこちらに戻ってきているか?」  いきなり、エントランスから聞き覚えのある男性の声が聞こえた――この声は国王陛下の側近の一人。どうして、カロール殿下の側近ではなく陛下の側近がきた? いま舞踏会の帰りで混雑しているだろう王都からこんなにも早く。 (まさか、殿下を苦しめたとして捕まえにきた?)  だとしたら、牢屋、国外追放よりもひどい罰を受けるにちがいない。こうしてはいられない、ここから早くでないと。 (あのなにか割れた音と、カロール殿下はなにに苦しんだのだろう? それにあの声もだ)  考えたけど。  さっぱり、わからない。  "ガンッ"と下の階から何かを叩いた音と。 「その話は誠なのか!」  お父様の怒りに満ちた声が聞こえた。  側近からカロール殿下との婚約破棄の話と、その後の話を聞き、かなりのご立腹のようだ。  あの人は。 『お前は物覚えが悪い!』 『なぜ、こんな簡単なものができない!』  幼いころダンス、礼儀が出来ないといっては容赦なく私に手を上げた。ゴクリ。そのときの恐怖はいまも体に染み付いている。 「「はやく、ルーチェをここによんで来い!」」  ひっ! は、はやく、こんなところから出ていかないと……たたかれる。クローゼットからカバンを取りだして、舞踏会に着ていたドレスを乱暴に脱ぎいれた。   (え、ド、ドレスがカバンの中にきえた?)    クローゼットのワンピースも入れてみると……カバンのなかにきえた。 「…………」  おそるおそる中に手を入れてみると、底がなく空洞……これって、ファンタジーゲームなどで見たことがある"マジックバッグ"?と、元オタクの私は瞬時に理解した。 (このカバンは先輩がくれたものだわ……マジックバッグだなんて、先輩ったら、な、なんてものをくれたの! うれしい)  そうなのだとしたら。私は部屋を駆けまわり絵画、宝石、好きな本、溜め込んでいたお菓子をカバンに詰めこんだ。  最後に手にしたワンピースは。 『ルーに似合うと思って、買ってきた……』 (照れながら、先輩はこのワンピースをくれたんだよね……もしかして、これにも仕掛けがあったりして?) 「…………」  よし、これは着ていこう。  先輩から貰った水色のワンピースに着替えたとき"コンコンコン"と部屋の扉がノックされた。
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