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二
婚約破棄あと。王都から一時間かけて屋敷へともどった私は、両親にかえりの挨拶もせず、部屋に駆けこみ必要な荷物をまとめはじめた。
(持っていくものはワンピースと……)
クローゼットを開き、ワンピース数着と下着。あと、貯めていたお金をカバンに入れないと。
私の罪が決まる前、婚約破棄を知った両親に屋敷を追い出される。二階の部屋でせっせと荷造りしていた。
そこに。
「ロジエ公爵、ルーチェ嬢はこちらに戻ってきているか?」
いきなり、エントランスから聞き覚えのある男性の声が聞こえた――この声は国王陛下の側近の一人。どうして、カロール殿下の側近ではなく陛下の側近がきた? いま舞踏会の帰りで混雑しているだろう王都からこんなにも早く。
(まさか、殿下を苦しめたとして捕まえにきた?)
だとしたら、牢屋、国外追放よりもひどい罰を受けるにちがいない。こうしてはいられない、ここから早くでないと。
(あのなにか割れた音と、カロール殿下はなにに苦しんだのだろう? それにあの声もだ)
考えたけど。
さっぱり、わからない。
"ガンッ"と下の階から何かを叩いた音と。
「その話は誠なのか!」
お父様の怒りに満ちた声が聞こえた。
側近からカロール殿下との婚約破棄の話と、その後の話を聞き、かなりのご立腹のようだ。
あの人は。
『お前は物覚えが悪い!』
『なぜ、こんな簡単なものができない!』
幼いころダンス、礼儀が出来ないといっては容赦なく私に手を上げた。ゴクリ。そのときの恐怖はいまも体に染み付いている。
「「はやく、ルーチェをここによんで来い!」」
ひっ! は、はやく、こんなところから出ていかないと……たたかれる。クローゼットからカバンを取りだして、舞踏会に着ていたドレスを乱暴に脱ぎいれた。
(え、ド、ドレスがカバンの中にきえた?)
クローゼットのワンピースも入れてみると……カバンのなかにきえた。
「…………」
おそるおそる中に手を入れてみると、底がなく空洞……これって、ファンタジーゲームなどで見たことがある"マジックバッグ"?と、元オタクの私は瞬時に理解した。
(このカバンは先輩がくれたものだわ……マジックバッグだなんて、先輩ったら、な、なんてものをくれたの! うれしい)
そうなのだとしたら。私は部屋を駆けまわり絵画、宝石、好きな本、溜め込んでいたお菓子をカバンに詰めこんだ。
最後に手にしたワンピースは。
『ルーに似合うと思って、買ってきた……』
(照れながら、先輩はこのワンピースをくれたんだよね……もしかして、これにも仕掛けがあったりして?)
「…………」
よし、これは着ていこう。
先輩から貰った水色のワンピースに着替えたとき"コンコンコン"と部屋の扉がノックされた。
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