飛頭蛮

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「あなたが通報をくださった方ですね」 私が質問すると、青年は怯え気味に「はい」と答えた。  視線が私の胸を経由しながら右へ左へと揺れている。  ――怯えなのか。それとも人付き合いが苦手なだけなのか。  こうして簡単に視線の動きが読み取れるので、無駄に大きなこの(バスト)も案外悪くない。 「どうやってお気付きになったんですか?」 私が尋ねると、青年は自信なさげに答え始めた。 「…少し前まで、上の部屋からドタドタと音がしていたんです。でもそれがパッタリと止んで――」 「音が止んだのはいつ頃?」 「多分――2週間前くらい」 「で…何かあったのかと心配に?」 「…はい」  上の階に住む住人の姿を最近見ていない。物音もしなくなった。郵便受けにはチラシと宅配の不在票が詰まっている。何かあったのではないか。  下の階に住む大学生が警察へ連絡を入れ、管理会社立会いの下で警察官が内部を確認。  ――そして私達捜査1課の出番となったのだ。  一人暮らしの女性が自宅の玄関先にて変死体で発見された。  医師立会いの下による確認が無い状態での死亡――所謂孤独死や突然死の場合、事件性の有無を確認するために捜査1課による調査が行われる。  この場合も玄関先での不審死。現場の検証と発見者、もしくは通報者の供述、必要に応じ司法解剖を行い、事件性の有無を判断しなければならないのだ。 「普通、こういう事って管理会社に電話すれば済んだんじゃないのですか?」 我ながら意地悪な質問だとは思う。しかし好意が暴走して凶行に及んだ。数日過ぎて冷静になったら恐ろしくなった。という可能性だって十分にあり得るのだ。  通報をくれた人が善意の通報者だとは限らない。贖罪の為の通報という理由も否定しきれない。全てを疑わなければ刑事という仕事は務まらない。 「あ…」 だが男性は答え難そうに俯くとそのまま黙り込んだ。そこまで気が回らなかったという事か。  もしくは“死んでいる”と確信していたという事なのだろうか。  その様子に一抹の疑問を抱いたものの、その極めて独特な現場状況から事件性には乏しいと判断せざるを得ず、私達はその場を引き払おうとした。  その時――
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