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他に類を見ない程の異常な変死であった為、遺体は司法解剖を受ける事になった。
こんな薄気味悪い遺体とは即刻オサラバしたかったのだけれど、理解出来ないからといって放棄する事を許さない私の性格がそれをさせなかった。
検案書を待てとは言われたのだけれど、私は解剖が行われる日を待って、司法解剖を担当した大学の法医学教室へと向かっていた。
この検死を行った菅原先生が屋上で一服していると聞いたので、私はそこへ向かった。
屋上ではぼわぼわと紫煙を立ち昇らせるヨレヨレの白衣を着た小さな背中が私を出迎えた。相変わらず歓迎はされていないようである。
「禁煙じゃないんですか」
「解剖後なんだ。文句言うな」
菅原先生は大学の医師にしては薄汚い格好をした、小柄なお爺さん医師である。
定番の様に『口は悪いし素行も悪い。けれども腕は良い』といった評判で、文句を言いながらも私の愚痴をよく聞いてくれるのだ。
「担当がお前さんだって聞いてな。どうせ来るだろうと思ってメモっといたぜ」
医師は私に背を向けたまま後ろ手に紙片を差し出してきた。私はそれを受け取り、レポート用紙に殴り書きされた文に目を走らせた。
「ひと仕事後の休憩を潰されたくねぇんでな」
要点を掻い摘んで記入してくれている。文句を言いながらも優しい人なのだ。
そこには――
解剖結果→遺体の頚髄に損傷(神経が断絶され、首から下の感覚がなくなる障害。
推測→玄関先で派手に転倒。それにより脊髄を損傷し、ひっくり返ったカエルの様な格好のままで動けなくなった。
口腔内と咽頭、胃に血液の付着。舌には自らの歯でつけたと思われる傷。自らの血を飲んでしばらくは生き延びていたのだろう。
転んで自爆して脊髄損傷。動かせる首だけで生き延びようとした。
事件性は無い。ということなのだろう。
――だが。
その先は殴り書きとは違う丁寧な筆跡で記されていた。
遺体の首の長さは5m69cm。頭骨は頚椎との接合部分から外れていた。
直接の死因は頭部への打撲による脳出血。伸びた頚部には脊髄以外の損傷なし。
頭部、顔面に複数の打撲痕あり。これは周囲の床や壁に皮膚片や血痕が付着していた事から、頭部を振り回して周囲に激しくぶつけた事によるものと推測される――
私が無言で顔を上げると、それを察したように菅原先生が声を掛けてきた。
「納得いかねぇって顔だな?ヒヨコちゃん」
「新人じゃないんですからちゃんと小鳥遊って呼んでください。納得いかないも何も、私もその遺体を見ているんです」
私がそう言い返すと、俺からみたらお前はまだまだヒヨっ子だと返された。
「じゃあ分かってるだろ?何か問題があるか?」
「問題だらけじゃないですか」
「俺ぁ現場を見たワケじゃねぇ。遺体に刻まれた物語を聞き取っているだけだ」
そして盛大に鼻から煙を吐き出す菅原医師。
「いつから詩人になったんですか?」
「嘘はねぇだろ」
「――死因は?」
「そこに書いてんだろ」
「先生の口から直接聞きたいの」
そうかい。
じゃあ語ってやるよ。
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