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 教室の窓からは、なおも大音量のBGMと、それに負けないくらいの掛け声が聞こえてくる。  かなりの賑やかさだ。一方教室の中に意識を戻すと、こちらは驚くほどの静寂である。  ただ聞こえるのは、自らの高鳴る鼓動と、目の前にいる小男の荒い呼吸だ。  二人は机もない簡素な教室の窓際で、近距離で向き合っていた。  「私の言った通りのことを書け」  四条雪乃(しじょうゆきの)は、強い口調でジャージ姿の男、馬田誠(まだまこと)に言う。四条の手にはサプレッサーのついた拳銃が握られており、その銃口は馬田の脇腹に突き付けられていた。  先程から彼が荒い呼吸をしているのも、自分に真っすぐ向けられた銃に怖気づいているからだ。    「わ、分かった! 分かったから」  四条の命令に、馬田は二重顎を揺らして必死に頷いた。滑稽だ。必死に生きながらえようとしているのが、彼の惨めな姿からうかがえる。  しかししまいには、その命さえも奪われる——  そのとき彼女の頭には、姉の笑顔が浮かんだ。  あのときの彼女もきっと、今の馬田と同じような心境であったはずだ。  四条夏菜(しじょうなつな)。四条がこの世で一番尊敬していた姉。死ぬまでずっと一緒に入れると思っていた。なのに、なのに。  生前の姉の姿に思いを馳せ、馬田に対する殺意がさらに沸き立つ。できれば今すぐにでもこの引き金を引いて、殺してしまいたかった。  今、馬田の手には四条が渡した紙切れとペンが握られている。これから彼に書かせるのは、偽装の遺書である。  これを自殺に見せかけるための。 「『人生に疲れた』」 「‥‥‥え?」 「いいから、黙って書け」四条は、銃を握る手の力を強めた。「騒いだら撃つ」  結局撃つのだが。    そうとも知らずに、四条の言うことを聞けば生きて帰されると思っている彼は、惨めにも彼女が言った通りの文言を一心不乱にメモに走り書きし始める。  字は想像以上に汚いが、自殺する前の人間が書いたものという設定だから、逆にこの方が都合がいい。  「お、終わった‥‥‥」  いちいち報告しなくても分かる。これで準備は整った。  四条はペンと紙切れを、銃を握るもう一方の手で彼から奪い取ると、引き金に力を強めた。しかし、そこで力を弱める。わき腹では、確実に死なないかもしれない。  一発で、確実に死んでもらわないと後々困る。  そう思った四条は、無表情でわき腹から銃を離すと、今度は馬田のこめかみに、それを向けた。  銃を離したときの彼の安心した表情は、自分のこめかみに当てられた銃口によって、さらに強張った。 「言い残すことは?」 「お、おい四条! ふ、ふざけるのも——」 「騒ぐな。撃つぞ」  何度目か分からぬ忠告を、四条は再び浴びせる。しかし、その忠告ももはや意味を持たないものになろうとしている。  四条は覚悟を、いや、覚悟なら最初から決めていた。だから、躊躇うそぶりも見せずに引き金を引いた。
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