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「え」
思わず声を上げた。どういうことだ?
「なぜ現場のカーテンは閉まっていたのか、これはずっと僕を悩ませ続けた謎でした。しかし、ようやくその謎が解けました。犯人がカーテンを閉めた理由、いくつか考えました」
「‥‥‥」
「なぜカーテンを閉めたのか。
犯行は銃が鳴る前に行われていて、遺体が窓に寄り掛かっているのが見えないようにするため? いえ、そのときは逆光で窓の奥は見えませんでしたし、何よりカーテンを閉めた方が目立ってしまい、逆に怪しまれます。この可能性は打ち消されます。
では、見方を変えてみましょう。犯人がそこまでしてカーテンを閉めたかったのはなぜか。そう考えたとき、一つの答えが降ってきました。それが、犯行時、雨が降っていたから、ということです」
「‥‥‥」
そういうことか。
「犯人は、校庭に銃声が響いたという状況を作り出すために、窓を開けておかなくてはならなかった。しかし、そのとき外では雨が降っていました。そうすると、窓を開けると外から雨が入り込んできます。遺体やらそこに置いた遺書やらが濡れてしまいます。そうなると、どうなるか。
もし仮に偽装の銃声が校庭に響いたときに雨が止んでいたら、なぜ犯行は晴れているときに行われたのに遺体や遺書が濡れているのだ? となります。そこから、犯行は雨が降っている際に行われて、犯人がアリバイトリックを使ったということがすぐにばれてしまうのです。
それを恐れた犯人が、窓を開けたうえでカーテンを閉める、というおかしな行動をとったのですよ」
「‥‥‥」
俯いたままだが、冬城の視線を、強く感じる。何も言い返せない。
「何を言いたいのか、わかりますか?」冬城は続けた。「犯行は雨が降っているときに行われた。雨が降っていたのは、早朝から十時前にかけてです。要するに、偽装の銃声が鳴る以前から、馬田さんはすでに殺害されていました。あなたには、犯行が不可能です」
冬城の声が、室内に響く。
記録係の素早いタイピング音が、奥から聞こえてきた。
「‥‥‥」
反論など、思い浮かぶはずもない。
もしかしたら藤田は、こうやって冬城に見事な論理で言い負かされることを、心のどこかで望んでいたのかもしれない。
自分が犯人に名乗り出ても、きっと冬城が否定してくれる。そんな期待があったからこそ、藤田はこのような行動に出たのではないのだろうか。
よく分からない感情だ。
「こんな真似は、止めましょう——」冬城が、どこか落ち着くような声で、そう言った。
「四条さんは、罪を認めています」
「‥‥‥」
いつの間に。
そうだったのか。
要するに、藤田の今までの行動は、最初から無駄だったのだ。
もう、初めから決まり切っていたことだったのだ。
ドアが勢いよく開いた。藤田は憔悴しきった顔を上げる。
そこに立っていたのは、四条雪乃——
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