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天体観測
泣き過ぎたらお腹が空いた。
かすみはノソノソとアパートを出て、コンビニを目指し坂を上った。息が切れる。
涙がこみ上げ、溢れてこぼれ、汗と混じる。ポタポタと滴になってアスファルトに落ちていくのがわかるほど、自分のシューズの紐の結び目ばかり見ながら歩いている。
「お~い、お姉ちゃ~ん」
兄弟のハモッた声がした。ずっとボーッとしているもんだから時間の感覚がわからない。辺りはもう暗かったが、兄弟が起きているってことはまだ8時じゃないのかな、とボンヤリ思った。
「ねえ、上見て、上」
「あれがこと座のベガ。あれがわし座のアルタイル。それでそっちがはくちょう座のデネブ」
「夏の大三角だよ」
「やっと見れたなー」
「なー」
三角? 三角――なんて単語、聞きたくない。また、涙が出た。
でも……上。上か……足元のシューズは下。下があれば上もあるんだ――
そうね、夏の夜は空を見上げよう。
かすみは手の甲でぐいと頬をぬぐった。
(完)
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