カレシ

1/1
前へ
/10ページ
次へ

カレシ

南かすみ、19歳。カレシいない歴19年。要するに初めてのカレシだった。 言い訳すれば、高校まで女子校で、あまり趣味もなくどちらかといえばインドア派、名前通りどっか存在感の薄い――そんな女子。なので、男性と付き合うなんてことは映画か空想か、はたまたどっか異世界のことで、それらしききっかけすらないままこの歳になった。 こういう場合、漫画とかドラマなら、積極すぎる親友に無理矢理引っ張られ、「あんたは本当はキレイなんだから」となぜか本人以上に知ってる風に断定的に何かの行動をさせられる。そうして人生が変わっていく――なんてこと、現実にはない。自分で動かなかったら、何も変わらないのだ。 19にもなればそんなことわかりすぎるほどわかってしまう。もちろん自分以上にわかって断定して引っ張ってくれるような都合のいい「親友」もいない。 大学に入ったのをきっかけに、とにかく何か変えようと思った。それで入学式の日に最初に声をかけてきたテニスサークルに入部したのだった。運動は得意じゃないが、とにかく何でもよかった。新しいことなら。 そのときの勧誘者が片山信也だった。 メガネがカワイイね、歩くときは車道側は僕が、そのスイングなら必ず上手くなるよ――。 今までに言われたことのない誉め言葉。気障なセリフも全力な感じの本気度。ニコニコと何でも聞いてくれる。つまらない自分が話し上手で魅力的なんじゃないかと錯覚し始めた。ガッチリした体型の、黒目が大きな童顔で、テニス大好きっていう証明のような日焼けの仕方。そんな彼をいつも目で追うようになるのに時間はかからなかった。 何となくいつも一緒にいるようになり、何となく休みに二人でどこかへ出かけ、何となく彼のアパートに泊まる日が訪れ――19年のいない歴に終止符を打った。 それがゴールデンウィークの頃のこと。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加