バイト

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バイト

テニスでも男でも、夢中になるものがあると毎日にハリが出る。テニスウエアはもちろん、私服やネイルやコスメなんかも気になってくる。買いたいものを買うにはお金がいる。それで片山が紹介してくれた居酒屋のバイトを始めた。 そこで出会ったのが1つ年上の平井真奈だった。 美人な目鼻立ちではないものの、元気で声が大きくてチャキチャキと動き回る真奈は面倒見もよく、仕事を手取り足取り教えてくれた。 わからない? じゃあ一緒にやってみよう。何でそんな後ろに引っ込んでるの? 堂々と立ってればそれだけで元気に見えるものよ。悩んでる? 黙ってるより聞いてみたら意外と解決するかもよ。一人で延々悶々とするよりハッキリさせて一撃で倒れて起き上がる方があたし好き。 真奈の言うことは実践すると「なるほどな」と思えるものばかりだった。真奈といると元気が伝染してくるし、自分で自分を好きになれる気がした。少しずつでも。 大学は違うけれど、真奈もかすみと同じ英文科だった。どんな文学が好きかとか、洋画の趣味なども似ていて、一緒に出掛けたりするようになった。まずは留学するのが夢、という真奈にかすみも引っ張られるものがあった。 電話やメールでの態度で、真奈にも彼氏がいるらしいことはわかった。でも、何だか雲行きが良くなさそうで、ちょっと聞けなかった。 なので、かすみも真奈といるときはカレシの話はしなかった。本当は初めてのカレシ、いろいろ相談なんかしたかったんだけど。 一度スマホの待ち受けに二人で写っている写真を見られたことがある。いいきっかけだから話してみようかな、とも思った矢先。 ……不思議なことにそれからは真奈となかなかシフトが合わなくなった。
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