引越

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引越

なるほど、真奈は留学を決めたってわけだったんだ。その準備にいろいろと駆け回っていたからバイトのシフトを減らした。さすが、ちゃんと着々と夢を叶えている、と改めて尊敬し直した。 「かすみちゃん、あたしの部屋引き継がない?」 例年よりも遅めの梅雨が明けた頃、バイトに出向くと店の入口に真奈がいた。その日でバイトは辞めたそうだ。かすみを待っていたようで、会うなりそう言った。 「洗濯機、冷蔵庫、エアコン付き。全部古いけど」 覚えてくれてた――かすみは1時間ほどの自宅通学をしているけれど、姉夫婦の同居の話が出ていた。「お邪魔虫になっちゃう」なんて愚痴をこぼしたことがある。そのアパートはバイト先からも大学からも20分くらいで、かすみはすぐに好意に甘えようと決めた。 「留学している間の留守をお願い」という話だった。それももう、あと1週間後に、という差し迫った時期で、かすみはいいけど真奈はバタバタだったろうな、と思う。 かすみだってどこにスーパーやコンビニがあるか、郵便局や銀行は、最寄り駅までの道順は、等々ほとんど把握しないうち。 だから、知らなかった。 一番近いコンビニが、線路を越えた向こうにあるなんて。いやそれはいいけど、そのたかが300mほどの距離、こんな「開かずの踏切」のせいで30分以上かかるだなんて。 真奈先輩~~、聞いてないですよお、こんな話……。
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