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疑惑
最初にアイスを溶かしてしまってから、かすみはその踏切を避けるようになった。線路の外側沿いに小高い丘を上り下りするような抜け道を見つけ出した。かなりの遠回りになるけれど時間的には断然速い。
でも……それを簡単に見つけたのには訳がある。
引越のとき、実家から必要な荷物を片山が愛車のBMWで運んでくれることになった。着替えとテニス用具と大学のテキスト類くらいで、普通のドライブと大して変わらなかった。
陽気に話しながら、片山はカーナビが案内するルートとは違う道に入った。あれ、と思ったけど、そのときはあまり深く考えなかった。
そう、そのとき進んだのが、この小高い丘を通る回り道。上っていくと思ったら下って行って、エレベータみたいだな、と印象には残っていた。その印象を頼りに探し出したわけで。
その行き帰り共に踏切で待たされた記憶はない。こんなに待たされる踏切を通ったなら、いくら記憶力が悪いかすみでも、いくら片山といる時間が百倍伸びればいいのに、と思っていても……覚えているはず。
彼は、間違いなくこの踏切を避けたんだ。そこに「開かずの踏切」があることを知っていた――。
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