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一つ疑問が生じると、ずるずると思い出す。 付き合って初めての誕生日。20歳になる記念日。片山が暑さを吹き飛ばす素敵な日にしてくれることを、かすみは信じて疑わなかった。 が、彼は「ごめん、前の週に振り替えていい? 来週、田舎から親が出てくるんだ。同窓会なんだってさ」と手を合わせてきた。 それで、お洒落なレストランとケーキとネックレスのプレゼントで盛大にお祝いしてくれた。一日中一緒にいてくれて、楽しくて嬉しくて幸せだった。 だから、彼を信じたかった。変な噂を信じたくなかった。 片山信也の本命は平井真奈。南かすみと二股かけている、なんて噂。 かすみの誕生日――先週の水曜。その日は真奈の日本最後の日、翌日朝出発するという日に重なっていた。 もし噂が本当なら。片山にとってはこの先しばらく会うことのできない好きな人との最後の夜。どうしても一緒に居たい……そう思うのではないだろうか。 かすみの誕生日と秤にかけてどっちが大事か選んだ―― そんなことはない。だって誕生日の代替日にはちゃんと優しかった。ちゃんと愛情を感じた―― でも、真奈のアパートまでの行き方を知っている。そういえばあの居酒屋のバイトは、片山の紹介だった。行きつけで知り合いがいるんだと言っていた。が。 ひょっとして真奈はかすみのカレシと自分の彼が同じと知って恋バナをしなかった? だから、かすみと距離をおいた? 留学だって急な話だった。夢だとは言っていたけどすぐとは言っていなかった。 つまり、片山は二股かけていた? ――それじゃ、三角関係じゃない。 ないない。あるわけない。 大好きな真奈。大好きな片山。……もし、本当だったら。 ……かすみは聞けなかった。「一人で延々悶々とするよりハッキリさせて一撃で倒れて起き上がる方が好き」と真奈は言った。かすみもそうしていきたいって思っていたのに。 ううん。あの日は、かすみの誕生日当日には、本当に親御さんが上京したのだ。だってあの日はサークル活動が7時まであって、そのあとみんなでいつもの飲み屋に流れて。 かすみも参加していたから確かだ。片山は9時までそこにいて「もう親、着いたって」って言い残して帰ったのをちゃんと見ている。大丈夫―― ――その後に真奈のアパートに行ったんじゃなければ。
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