一撃

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一撃

スマホが鳴っている。片山の名前が画面に出ている。スワイプする気力が出ない。 それが不在着信となった後、まもなくして真奈からメールが届いた。無事に留学先へ着いたこと、勉強して博士号を取って、その国で働く覚悟を決めていること、恐らくそのアパートへ戻ることはないから契約更新など自由にしてくれとのこと。 そして最後に。 「かすみちゃんに何度も言おうと思ったけど言えなかった。あたし片山信也を吹っ切りたくて吹っ切れずにいて。自分がいつも言ってるくせにね。『一人で延々悶々とするよりハッキリさせて一撃で倒れて起き上がる方が好き』なんて。ずっと聞けなくて、でも留学を機にようやく討ち死にする覚悟ができたのよ――かすみちゃんを大事にね、って言ったらうなずいてくれたわ」とあった。おそらく真奈は、このメールでそれを一番言いたかったのだろう。 わかっていた……本当はわかっていたけどやっぱり手が震えた。かすみは……かすみもそれを実行するときだと思った。そういう人間になりたかったんだから。 一撃を覚悟し、意を決して片山に会いにいった。泣くまいと決めて、一つ一つ事務的に問い質した。 ――かすみも、討ち死にした。 いつ帰ったのかも覚えていないアパートの部屋の隅っこで膝を抱えていた。身体が重くて自分で支えきれず、壁の角っこに体重を全部預けていた。 片山を信じ切れなかった自分と、それが正しかったことのダブルパンチ。プラス無神経に真奈を傷つけていたこと。 かすみは冷蔵庫の奥で忘れ去られていたほうれん草のごとく、しおしおに萎れていた。
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