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《2》 今田くん
ぎらぎら突き射してくる太陽が痛い同じ日の昼休み、近沢唯は中庭で、一人の男子に声をかけられた。
「近沢先輩、好きです。付き合ってください!」
その男子生徒は、1コ下の後輩で、委員会を通じて知り合った。いかにも元気溌剌といった感じの男の子だ。とは言え、やはり顔を知っていても名前までは分からない。唯はいつも「後輩クン」と呼び、名前を覚えようとはしなかった。今朝の男子に比べれば少しだけ情報はあるけれども、興味の対象ではなかった。
「はい。喜んで。わたしも、ずっと好きだったよ」
美しく笑ってそう言うと、彼は安堵して胸を撫でる仕草をした。
「良かった。うれしいです。いや、めちゃくちゃうれしい。じゃあ、もう名前で呼んでくださいよ。ぼくも唯先輩って呼びますから」
これに唯は、フフッと微笑んだ。
「もっと仲良くなったらね。後輩クン」
二人は今度の日曜日にデートする約束をして別れた。唯はそこで攻撃的な視線に気づき、校舎のとある窓辺を見上げた。一人の男子生徒が、こちらをじっと睨みつけている。距離があるため、表情までは分からない。視線が合っているのかどうかすら定かではなかったから、唯はぷいと顔を逸らし、その場を離れた。
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