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《3》 森崎くん
まだ夕焼けが遠い同じ日の放課後、部室に寄ったところで、またしても唯に声をかけてくる男子生徒がいた。
「近沢、好きだ。付き合ってくれ」
彼は唯が所属している演劇部の脚本担当だった。大人びた風貌と、それに合致する落ち着いた気配を纏うスタイリッシュ眼鏡男子。名前も性格もよく知っていて、彼の書くホンもすごく好きだった。唯は迷わずに答える。
「はい。喜んで。わたしも、ずっと好きだったよ」
言うと、彼はクールに頷き、小さな微笑をくれた。
「まあ、その答えは筋書き通りだな。これから未来は、互いの手を取り合っていこう」
そして彼は、日曜日にデートをしようと言い出した。唯には何も迷うところがない。快くそれを受け、約束の言葉を口にした。
部室を出て、昇降口に向かう。
何組かの男女が、今にも愛を語り出しそうに話しているのが見えた。
もう五時を過ぎたというのに、昼間の暑さはまるで抜けない。だが唯は、それ以上に心が熱くなっていた。浮かれるわけではないけれど、思わず拳を握っていた。
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