《5》 じりじりと佐咲くん

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《5》 じりじりと佐咲くん

「ゆるさないよ。三股なんて」  最初に告白してきた男子が言った。 「ゆるせないよ。信じていたのに」  二番目に告白してきた後輩クンが言った。 「みんな、思うことは一緒のようだな」  三番目に告白してきた脚本家が言った。  彼らの背後には、一人の男子生徒が立っていた。()(ろう)のごとく鋭い気配をもつ彼は、(あざ)(わら)うかのように唇を()にして、唯の対応を(さげす)み見ている。唯は彼のことをよく知っていた。名前も、性格も、声も──とても俺様気質で、一部の女子から変な人気があることも。  唯はその男子生徒を睨み、語気を強めた。 「()(さき)くんの仕業だったのね。この三人を使って、わたしを追い込もうとした」  告白してきた三人が、佐咲という男子に向かって視線を向けた。それらを受けた彼は、()(たけ)(だか)に腕を組んで話し出した。 「おまえが同時に三人から告白されたらどうするかなあと思ってさ。考えが浅いおまえなら、三人と付き合うんじゃねーかと思ってたし、実際にそうなった。そしたらどうだ。校内におまえの悪い噂が流れたわけさ。多少頑張ったって消えない噂だ。だが、それを収拾する手段が一つだけある。俺がこの三人をブン殴って、おまえを奪ったって設定にすればいい。そうしたら全部が丸く収まる。風船みたいにふわつくおまえは、俺みたいに強い男といるべきなんだ」  確信が込められた言葉だった。唯は不快そうに問いかける。 「どうして佐咲くんとわたしが付き合うの。わたしのことが好きなの?」  さあね、と佐咲は(わら)った。 「好きかどうかなんて必要か? おまえは俺といるべきだ。最初からそう決まってるんだよ。出逢ったときから、そうなる運命だった。たとえ俺が不本意でもな」  好意的な言葉を彼が口にしたことはない。唯は意地悪されてばかりだった。一度として優しくされたことはない。だから腹が立った。だから何だか、笑えてきた。 「ああ、そうなの。佐咲くんの気持ちは全然なくて、だけどわたしが欲しいだけなのね。それは何? どういう理屈? 運命って何よ。わざわざこの三人を使って、よく分からない命令をするためにわたしを試したってわけ?」  佐咲はすでに勝利を手にした顔をしている。物分かりの悪い子どもを蹴飛ばすような悪意で、罵る感じに言った。 「しょうがねーよなあ。運命なんてモンは、個人が頑張ったところで覆るモンじゃない。どんなに不本意だって、おまえを俺の隣に置いとくしかねーんだからよ」  それを聞いた唯は、肩を揺らして笑った。くっくっ、くっくっ、定期的な振動によって、夏の熱も瞬間ほどの遠慮をした。
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